篠笛を自作する  

(初めて笛作りを試みたときからのことが順番に書いてありますので、一般的には下ほど新しい情報になっています。初期の頃と現在では考えが変わったり製作方法も多少違っておりますが、今後も変わっていくと思われますので、初期の文も書き換えせずにそのまま載せています。)

 高水山獅子舞笛(古典調6孔5本調子)平成23年製作  下名栗獅子舞笛(古典調7孔4本調子)平成19年製作   囃子笛(古典調6孔5本調子)平成25年製作
高水山獅子舞笛(古典調6孔5本調子)平成
23年製作 下名栗獅子舞笛(古典調7孔4本調子)平成
19年製作 囃子笛(古典調6孔5本調子)平成25年製
作

篠笛を自作する

 昔の人は笛をどのようにして手に入れていたのでしょうか。現在と同じで専門の店から購入していたとも考えられますし、笛作りの得意な人が作っていたとも考えられます。篠笛を作るホームページもいくつか公開されており、たまたま自宅近くから手頃な篠竹が手に入りそうだったので笛作りをしてみることにしました。祭礼での笛吹の経験はないもののメロディーは頭に入っているので、自作した笛で獅子舞の曲を吹いてみたいという気持ちもありました。

材料となる篠竹(女竹)等
材料となる篠竹。実際に使ったものは写真のものより少し細長いものです。写真のものは長さと太さが規定外のものだったので油ぬきもせず、不要になってしまったものです。 篠竹 油ぬきした篠竹 完成した篠笛 栓にしたバルサ材
火であぶり油ぬきをした篠竹。これを2〜3年自然乾燥させてから加工します。
 ※この竹の例は、まだ青さの残るうちに油抜きをしていた製作初期の頃だったので表面がまだら模様になっていますが、現在では竹の青みが消えてから油抜きをしているので一般的にはもっときれいな色をしています。
完成した6穴の篠笛。油ぬきしたばかりの物はすぐには笛にできないので、写真は立ち枯れした篠竹で作ったものです。風雨にさらされていたためか、黒く変色した部分がありますが、これも面白いと勝手に思っています。
最下 歌口側を閉じる栓にする木材。コルクなどの弾力性のある木材の方がよいと思います。今回は家にあったバルサの端材を使いました。右側は円柱形に削り、栓にする直前のもの。

 この中で特に入手が難しいのは、篠竹(女竹)だと思います。幸い拙宅の近くには篠竹林があり、お願いして2本(そのうちの1本は立ち枯れしたもの)をいただきました。しかし、篠笛を作るのに適した節と節の長さが四十数cm以上ある篠竹はそう多くはありません。たくさん篠竹が自生していても、たいていは節間が短く条件にあう篠竹は少ないものです。また、節間の長さが長いものでも今年生えた新しい竹の場合は、使い物にならないとのことを聞いていたので、きれいな緑色のものよりも多少汚れた感じで、葉のようすも見て数年はたっていそうなものを選びました。
※生育に適した場所なのか、同じ地下茎から出ているのかどうか分かりませんが、篠笛を作れそうなものが一本見つかるとその周りの何本かの篠竹もたいてい条件に合うことに気づきました。ですから、笛作りに適した篠竹はあるところにはまとまってあるとも言えます。
歌口側の栓とするものはコルク栓でもよさそうですが、たまたま自宅にバルサ材の切れ端がありましたので、これを使うことにしました。

使った工具・道具類

必要な工具・道具等

のこぎり、切り出しナイフ、きり(ドリル)、紙ヤスリ、接着剤、細長い棒(篠竹の細いもの)、ものさし、コルク栓、和紙、 漆(カシュー漆)、筆、円形の棒ヤスリ
作業してみた結果、きれいに仕上げるにはよく切れる適切な道具が必要だとわかりました。刃物類はよく研いで切れる状態で使うと安全できれいに仕上がります。切り出しナイフがあればよかったのですが、これが自宅になかったため大型のしっかりしたカッターナイフと彫刻刀を使いました。この2つでは安全面で不安がありましたが、彫刻刀をよく研いで使用したらなんとか実用に耐えました。(その後、切り出しナイフを購入して使ってみたが、やはりこちらの方が圧倒的に便利で安全である。出来るだけ切り出しナイフを使うことをお勧めします。)
写真には写っていませんが、指穴や歌口をきれいに仕上げるために円形の棒ヤスリを使いました。これによって、歌口や指穴がきれいに仕上がりました。カシュー漆というものを初めて使いましたが、手軽でかぶれなくてよいのですが臭いもあります。臭いの方はしばらくすると無くなると思います。カシュー漆は釣り道具屋で売っています。

製作手順

 私の場合は、青竹のものと立ち枯れしたものの2本が用意できました。立ち枯れした方からは2笛分、青竹の方からは3笛分の材料をとることができました。 立ち枯れした方は、十分乾燥しているのですぐに製作できますが、青竹の方は2〜3年乾燥させないと笛はできないようです。(本当は煤竹という藁葺き屋根で百年以上も煙に燻されてきたものが最高品質のものだそうです。これらは現在入手が極めて難しいのですが、篠笛、 能管、龍笛の名品はこれで作られているそうです。)
 青竹の場合の下ごしらえ
  1. 冬場にとってきた篠竹を、風通しの良いところで数日間自然乾燥させる。
  2. 節と節の間をノコギリで切り、さらに数ヶ月自然乾燥させる。
  3. 水分が抜け青みが薄くなってきたら(2ヶ月〜3ヶ月)油ぬき(火で焦げないように加熱して、含まれていた油分を竹の切り口から出す)をする。このとき曲がっている部分もまっすぐになるように直す。(なお、日光に当てると竹の色が早くぬけます。)
  4. この篠竹をさらに数年自然乾燥させる。
  5. 青竹の場合、すぐには作れないので、せっかちな私は立ち枯れした篠竹の方を使い、次の手順で製作に取りかかりました。
 下ごしらえが済み乾燥した篠竹の加工
  1. 長年で焦げ茶色になってしまった部分もありましたが、何とか使えそうなのでガス火であぶり曲がりをなおしました。
  2. 篠竹に定規で直線を引き、穴を開ける位置を注意深くサインペンで印をつける。※穴の位置は、インターネットで公開されている篠笛作りのサイトから、もっとも良さそうと思われるものを使わせていただきました。この作業で音が決まるのでとても大切です。(現在では、所定の長さ(5本調子なら5本調子の長さ、4本調子なら4本調子の長さ)に切ったマスキングテープに、穴位置をサインペンで記入したものを材料の篠竹に貼って作っています。)
  3. ドリルを使って穴開けをする。ドリルの径が大きすぎると穴位置がずれている場合は修正できなくなってしまうので、小さめの穴でよい。
  4. ナイフで穴を大きくする。穴の位置が図面とずれてきてしまった場合は穴位置の調整をしっかり行いながら規定の大きさまで穴を大きくする。
  5. 穴をきれいにするために円形の棒ヤスリで形を整える。
  6. 篠竹の内側を紙ヤスリを巻いた長い棒で掃除する。外側も紙ヤスリで磨ききれいにする。
  7. 管頭(歌口側の端)をコルクまたは木の栓で閉じる。さらに通常の音も倍音も一番よくでる位置まで、試し吹きをしながら湿らした和紙を棒でつき固め、その位置を割り出す。※歌口の端から栓まで(ふところと呼ぶそうです)の長さは短くて2mm、長くて6mm位だと思います。
  8. 音が最もよくでる位置を確かめたら、いったん紙と木の栓を取り外し、今度は接着剤をつけて再び栓をする。そして、先ほど確かめた位置までほんの少し湿らした紙をつき固め、最後に接着剤を歌口から流し込み、管頭側(歌口側)を下にして数日間乾燥させる。
  9. ’6穴の場合は、指を全開した音(呂音)と全閉した時の倍音(甲音)の音の高さが同じになるまで、管尻を1mm単位で慎重に切り落とす。
  10. 笛の中と外をきれいに掃除しほこりをしっかりとる。
  11. 内側に朱色のカシュー漆を塗り、日陰で乾燥させる。漆を塗ることでカビの発生も抑えられるそうです。(完成)
  12. きれいに仕上げたい場合は、管頭側を木工パテで整形し、笛の表面も好きな色のカシュー漆で塗装する。割れ防止の糸や籐を巻くとなおよい。
試作品 6穴獅子舞用笛 7穴西洋音階(ドレミ…)笛

 完成した篠笛

 一番上は、穴の位置などはあまり気にせず、試しに作ってみた第1号です。この竹はきちんと用意したものではありません。長さも太さも足りず、歌口近くの節を栓替わりにそのまま使っています。表面は竹の生地のままです。音程はとれておらず、一番高い音が出にくいものです。
中央のものは2番目に作成したもので、規定の太さと長さの篠竹を使い、穴数は高水山と同じ6穴です。穴の位置は紀州の方の祭礼で使うものを参考にさせていただきました。立ち枯れして変色した部分がそのまま出ていますがそれも味の一つかも知れません。高水山の笛(曲)も自己流ながら何とか吹けますが、果たして調子が同じになっているかどうか疑問です。生家に帰ったときに兄に吹いてもらい確かめてみたいと思います。
下のものは、3番目に作ったもので7穴の西洋音階(ドレミ…)のものです。ホームページで公開されている資料から、穴の位置と大きさを図面通りに慎重に開けたので音程はとれています。写真で分かるように、穴の大きさや間隔がそれぞれ違います。私は7孔の笛の経験がなく恥ずかしい話ですが、6孔と較べて右手の小指で第1孔を押さえると他の指が指孔を押さえにくく、これが疑問に思っていました。しかし、右手の人差し指と中指と薬指は第1関節と第2関節の間あたりで押さえるらしいということが、7孔篠笛の吹き方のホームページに書かれており納得しました。
リコーダーの”ラ”の音とこの篠笛の”ラ”の音を比べると、この笛の方がかなり低い音になっています。どのくらいの振動数(周波数)なのか調べてみたいものです。カシュー漆で茶色に着色してみましたが、篠竹の生地のままの方が趣がよかったかも知れません。

 感 想 

 ただ音が出るだけのものならば難しいものではないが、きちんと曲が吹けるような音程がとれているものを作るのはかなり大変なことであると思いました。インターネット等で穴位置や篠竹の太さや長さについて公開して下さっている方がいたので何とかできたのですが、何もなかったならかなり試行錯誤が必要だと思います。しかし、初めての私でも何とか出来たので、何回も作っているとノウハウや要領も分かってきて決して難しいものではないことも分かりました。製作時間もさほどかからなくなります。したがって、昔は遠く離れた専門の店で購入するよりも、地元で笛作りの得意な人が作った方が多かったのではないかとも思います。 (というよりも、昔は笛の専門店などは無かったと考えられるので、自分たちが使う笛は自分たちで作ったものだと考えられます。)
 同じ指穴の押さえでも、息の吹き込み方で低い音と高い音(甲音)が吹き分けられますが、自分の作ったものでは管尻の方まで押さえた時の倍音はよく出せます。
きちんとしたものを製作するには、よく切れる道具類を揃えることが大切だと思います。 思いの外大変だったのは、歌口側に詰める木の栓です。家に工作用のバルサの端材があったので、これを栓に加工して使いました。ほぼ円柱形にナイフで形を整えてから、篠竹の穴の大きさにまで紙ヤスリで削っていくのですが、これがかなり大変でした。円形でぴったりのサイズにするにはかなり大変な作業です。そして、ちょうど大きすぎず小さすぎずの状態に注意深く削ってからも一苦労でした。仮に栓をしてぴったり納まったのでボンドをつけて再び取り付けてみると、今度はボンドのため微妙に太くなってしまい中に入らなくなってしまったのです。無理に押し込むと竹が割れてしまう恐れもあり、適正な位置まですっぽり押し込むのはあきらめました。 そのため、紙を少しずつ詰めて行きながら音のよく出る位置を調整し直しました。この紙を固めるため、木工用ボンドを使ったのですが、これは、笛を吹いているうちに水分によってふやけてしまい透明だったボンドが白濁してきます。仕上げにカシュー漆で表面をおおっていますので大丈夫だとは思いますが、接着剤は水に強いものを使った方がよかったのか、それとも湿らした和紙の関係で木工ボンドで正解だったのかどうかはよく分かりません。
 何にでも当てはまりますが、まわりで見ているのと実際に体験してみるのとでは大きな差があるものです。ほんの少しですが、笛について理解が深まった部分もあります。
 (追加) ※兄にこの笛を吹いてもらったところ、わりと強い勢いで息を吹き込んでいました。一庭の笛を吹ききるにはかなりの息の強さが必要なのだと感じましたが、この位の勢いで吹くことによって庭場に響き渡る音を出すことができるのだと思います。また、音程の方は、倍音成分の多い高い音(甲音)の方で主として演奏していることが分かりました。私が自作した笛は6本調子であるにもかかわらず、どうも高水山の笛よりも音が低いような気がして変に思っていたのですが、息の強さが足りなかったからだと分かりました。今度は、高水山と同じ調子(現在は5本調子ですが、昔は4本調子を使っていたと推測しています)の笛を作ってみたいと思います。(しかし、調子が小さいほど節間の長い篠竹が必要になり、条件に合うものは極端に減っていきます。調子の小さい笛(長さが長い笛)ほど高価になるのはそのためかも知れません。)

(尺八)運指チューナー対応している管楽器類

振動数・調子を調べる
 先日、とても有用で興味深いプログラムを見つけました。「尺八と遊ぼ」というサイトを主催していらっしゃる黒田建彰様の作られた(尺八)運指チューナーというものです。本来は、管楽器の運指と音程を学習するものだと思いますが、これを使えば笛のピッチ(周波数)や調子を調べることもできます。いろいろな指押さえをして吹いてみると、そのときの周波数や音の強さ、さらにはドレミ音階で何の音なのかも表示されます。調べたところ私の作った6穴の篠笛は6本調子であることが分かりました。思い起こしてみましたら、手に入った篠竹の長さの関係で、私は6本調子用の図面で笛を製作していたのでした。このことをすっかり失念しており、当然といえば当然の結果でした。
 篠笛作りにこのソフトを有効に使うことができそうです。試し吹きで周波数を確かめながら穴位置の調整を行えば、より音程のとれた篠笛ができると思います。(実際には、篠笛の音程の調整は開けた穴をパテ等で塞がない限り、低いものを高くすることしかできないそうです)
黒田建彰様は他にもメトロノームや音叉(平均律・純正律のどちらにも対応可)なども公開しており、これらもとても有効な使い方ができるソフトだと思います。 プログラムの入手先およびホームページは次のところです。

LINK 尺八と遊ぼ  【新しいウインドウで開きます】

 音程のとれた笛の製作(4本調子・5本調子・ドレミ音階) 

 今までの経験をもとに、実際の祭礼で使われている4本調子(6穴)の篠笛を製作してみることにしました。
1.事前準備 … 手本となる笛の入手
 何事にも準備が大切です。穴位置の確認と竹の太さ・長さを調べるため、実際に売られている篠笛を購入してみることにしました。(本当は、高水山で吹かれている笛を入手したかったのですが、現地に足を運ぶ暇がありませんでした。) 最初はとにかく安くすませようと思い、いろいろなWebから一番安価な笛を探し出し、これを発注しました。一週間もかからず笛が届きましたが、一目見て「こんなものか」とがっかりしました。家人に言わせると、私の作ったものの方が出来がよいとのことです。
そこで、新たにきちんとしたものを入手しようということで、名前の知られている篠笛専門店が製作した4本調子のものを再度発注してみました。普及品レベルのものですが、それでも値段は2倍ほど高価です。両端に籐が巻いてあり、通常はこのくらいのものをお囃子や獅子舞で使っているのではないかと思われるレベルのものです。 届いた笛を見て、やはり出来がはるかによいと思いました。

2.篠竹の準備
 次に、篠竹の準備です。これが大変でもっとも重要です。4本調子となると節間が最低でも46cm以上(7穴だともっと長いのが必要です)はほしいところですが、そのような篠竹を入手するのはかなり大変です。このような篠竹(女竹)は千本に一本とか一万本に一本とかそんな割合にしかないような気がします。 素材の篠竹
自宅より半径3kmほどのところを篠竹林がないかと散歩がてら探していましたら、かなり大規模で密生した篠竹林があるのを見つけました。次の休日に、この林で節間の長いものがないかと物色してみましたが、何しろ他人の土地なので心苦しかったのですが、偶然にも農家の人がトラクターでやってきて隣接している畑をたがやし始めました。勇気を出して、「笛を作りたいんですが、篠竹を何本か分けてもらえませんか?」と聞いてみました。そうしたら、「こんなの邪魔でしょうがねえんだ。一本といわず全部持っててくれ」とありがたい言葉をいただきました。どうも、畑まで竹が浸食してきて困っているようでした。そんなわけで、休日のたびにこの篠竹林に条件に合う篠竹を取りに行きましたが、ここはうっそうとした篠竹林で、太くて節間の長いものがかなりの確率で生えています。立ち枯れしたものも場所によってはまとまってあり、これらが密生しているため中に踏み込むのが大変なくらいです。割れているものもかなりありますが、何よりも本数が多いので何本かは条件に合うものです。立ち枯れしたものと青竹のものをあわせて都合20本分ぐらい入手できました。(※ 最終的には上の写真のように80本くらい入手しました。たくさんあるようですが、調子の小さい笛(長い笛)をつくれるものは極端に数が減ります。4本調子までは何本ずつか作れますが、3本調子を作れるのは1、2本しかないと思います。2本調子以上の竹は残念ながらありません。また、良い音色のものを作るために竹の材質や寝かせぐあいを考えると、良い竹はどんどん少なくなります。右側の3分の1は油ぬき・矯正が済んだものですが、焦げてしまったものは漆仕上げにするつもりです。)
今回完成した笛  塗料が乾くまでの笛の立て掛け台
一番目…7穴ドレミ音階 筒音440HZ
  (本体は竹生地のまま 管頭絹糸巻き)
二番目…6穴5本調子
  (黒塗り 内部赤塗り 絹糸巻き)
三番目…6穴4本調子
    (赤塗り 内部黒塗り)
四番目…6穴4本調子
   (黒塗り 内部赤塗り 絹糸巻き)
新たに自作した笛 塗装した笛の乾燥 自室で乾燥
ホームセンターでもらってきた端材に長い棒を取り付けたものです(棒は取り外しできます)

3.道具類の準備
 良いものを作るのに次に重要なのは道具です。前回一番神経を使ったのは穴あけで、このときはカッターナイフで代用しました。今回は、竹細工・木工用のきちんとした切り出しナイフを購入しました。当然ですが、カッターナイフよりも安全で圧倒的に使いやすく、穴あけが能率的にきれいにできました。円形の棒ヤスリを使わなくても切り出しナイフだけで穴がきれいに開けられました。
 また、管頭をふさぐ栓はコルクが良さそうですが、ホームセンターで見かけたコルクは径が大きいものしかなく、値段もかなり高価でした。そこで、他に代用できるものがないかと店内を探し見回っていると、バルサ材の丸棒が目にとまりました。直径15mmで長さが1mくらいのものですが、断面がすでに円形になっているので具合がよさそうです。(これから、20本分以上の栓がとれそうです。)前回も栓はバルサ材だったのですが、角材だったため円柱形にするのに苦労しましたが、今回の物は良さそうです。案の定、4本調子くらいでは、このくらいの太さが栓としてちょうどぴったりでした。細くしたいときは平たい板などで押さえつけ、平らなところで転がせば細くなります。また、笛作りに慣れてきたため、歌口と栓までの長さ(ふところ)の調整に、紙などを詰めなくてもバルサの栓だけでできました。(ただ、バルサ材は多孔質で、管内部に塗る漆を吸い込みきれいに塗れません。息がかかり濡れてしまう側のバルサの表面は接着剤等で細かな穴をふさいでから漆を塗った方がよいと思います。)
 ※追記  軽くて柔らかいバルサ材ですが、その表面に木工接着剤アロンアルファを塗ることにより非常に堅い材質になります。硬化した後は通常の木材よりもずっと堅く丈夫になります。


4.周波数を考えた篠笛作り

 製作については、前回で学んでいるのでさほど苦労せずできました。ただし、今回は音程がきちんと4本調子になるもの目指すということで、前述のチューナーを使いながら製作しました。

  1. 手本となる市販の篠笛と同じくらいの太さの乾燥・油ぬきがすんだ篠竹を、手本の笛よりほんの少しだけ長めに切断します。管内もサンドペーパーを巻き付けた細長い棒で、きれいにします。できるだけきれいな円形(真円形)になるように掃除するとよいと思います。なお、管内の径が、管頭から管尻に向かって急に細くなる竹の場合は音律がうまくとれません。このような竹については、管尻側の内径を丸棒ヤスリで少し広げた方がよいと思います。※広げすぎるとよくありません。(特に古典調の場合)
  2. 管頭側断面をバルサ材の栓がちょうど入る大きさまで、丸い棒ヤスリや紙ヤスリを巻きつけた細長い棒で広げ、曲面の形をきれいに整えます。(節近くだったので削る必要がありましたが、もっと長い竹材の節から離れたところを使えるなら、削るどころか和紙をまいてちょうど良いくらいかも知れません。)
  3. 内部に漆(カシュー漆)を塗る。各指穴に漆をスポイト等で滴下してから細長い棒の先にガーゼなどを巻き付けたもので塗装する。数日間乾燥させてからもう一度塗ります。(2007/8/14追記 初期の頃は5〜6回塗っていましたが、現在は篠笛本来の音色を考え内部の塗装は4回程度で終わりにしています。)
  4. 管頭側から5.5cmくらいのところに歌口を開けます。(竹の断面がだ円形になっている場合、広い方でなく狭い方を穴を開ける側にします。)
  5. 管頭側に用意しておいたバルサ材で仮に栓をし、尺八チューナーをセットします。音を出して規定の周波数(見本の笛と同じ周波数)になるよう、歌口の大きさや管尻までの長さを調整します。(歌口と管尻までの長さが長いと低く、短いと高い音になるので、少しずつ(約1mm単位で)管尻を切り落としたりする。見本品とほぼ同じ太さと長さのものが準備できたときは、ほとんど同じ位置になり調整はさほど必要になりません。)
  6. 管尻側の第1穴(孔)から、順番に穴を開けて行く。最初は見本品と同じ位置かほんの少し管尻側に小さい穴を開ける。チューナーで音の高さを確認しながら慎重に穴を大きくする。(高い音にすることはできるが、いったん高くなってしまった音を低くすることはできないので注意する。指穴と歌口の間隔を短かくすると音が高くなる。穴を大きくしても音は高くなるそうです。)
  7. 以下同様にして、順番に穴を開けて行き、すべての穴を開ける。
  8. チューナーで全ての音程を再確認し穴の形もきれいに整える。
  9. 管頭にバルサ材の栓を接着剤できちんと接着する。(高音部の穴位置が少し間違ってしまっても、わずかな周波数の違いならば栓の位置である程度補正が出来るようです。)これでほぼ完成です。1からここまでは、漆を乾かす時間を除けばほんの数時間です。
  10. カシュー漆で歌口や指穴の断面を塗る。好みによっては外側も漆で塗装したり、籐を巻いたりする。 (一行で書きましたが、ここで相当な時間がかかります。塗装の場合は竹表面の甘皮を紙やすりでとったり、塗り・乾かし・研ぎ等を数回繰り返すので時間もかなりかかります。見栄えもこの作業で大きく左右されると思います。)
穴あけ用ハンダゴテ 自作の作業箱 六孔五本調子
穴あけ用ハンダゴテ
最大径7.9mm
自作の作業箱
作業箱の材料費 560円
古典調六孔四本調子(籐巻)
五本調子
古典調六孔五本調子(籐巻)
5.製作上の注意点&改良点
  1. 穴をあける側について…竹の断面は少し楕円形になっています。歌口や指穴等は、上から見て細い方に開けた方が音が良く吹きやすいそうですが、枝や芽が出ていた側が細い側になっている場合、ここに歌口等を開けと割れやすくなってしまいます。このような場合は、反対側(裏側)の細い方を穴開け側にすると良いと思います。
  2. 内部の塗装について…漆(カシュー漆)で内部を塗装するのは、穴あけの前の方がよいかも知れません。塗装が後だと、最初に周波数を合わせた穴あけをしても、その後の塗装によって音色や音の高さが少し変わる可能性があるからです。(※追記 両方の方法で何本か作ってみましたが、どちらの方法でも一長一短があります。何本か作って完成後の音のイメージが出来るならば、どちらの方法でも良いと思っています。最近では穴あけにハンダごてを使うことが多いので、内部の塗装は後にしています。
  3. 管頭の処理…前回はパテを使って管頭をきれいに整えたが、無理にパテを使う必要もなさそうです。管頭側をほんの少しだけ中のバルサ材ごとノコギリで切り落とせば案外きれいです。バルサ材は多孔質で柔らかいが、接着剤(木工用瞬間接着剤アロンアルファ)等で断面を処理した後で漆(カシュー漆)で処理しておけば見ばえは悪くありません。(パテは固まるのを待ったり削ったりで多少時間がかかります。)
  4. 穴あけについて…前回はドリルの刃を何度か替えて大きい穴にしていったが、その必要性はなさそうです。よく切れる切り出しナイフがあれば最初に小さい穴だけあけておけば大丈夫です。切れの悪い大きい径のドリルを使うと、表面の皮がめくれてしまいかえって仕上がりがうまくいかないこともあります。
     同じ種類の笛を何本も作り調子ごとの穴位置が分かってからは、ドリルでの小さい穴の後はハンダごてで焼いて穴を大きくしています。径が8mm弱のハンダごてを購入して、先端部の尖った部分をヤスリで削りとったものを使っています。穴あけの時、煙がかなり出ますが短時間できれいな穴があけられます。ハンダごての先端部を削りとる理由は、尖って長くなっていると管の反対側まで先端部が届いてしまい内部を焼いてしまう恐れがあるからです。なお、火傷をしないよう軍手などをしていたほうがよいと思います。こげた部分を落としたり微調整のために、切り出しナイフは必要です。
  5. 道具類…切り出しナイフ等は、切れが悪くなったと感じたらすぐ砥石で研いで作業すると、安全できれいに仕上がります。
    <2005/01/16 追加>また、最近よく使っているものとしてマスキングテープがあります。これを使うと、ちょっとした作業のとき便利です。例えば、籐を巻くときには表皮を削っておく必要がありますが、その目安をつけるときや傷をつけたくない部分の保護等いろいろ使っています。
  6. 歌口の角度…真下に垂直にあけるのが基本だと思います。また、断面も出来るだけきれいに仕上げるべきで、エッジがギザギザしていると音もきたなくなるような気がします。
    (歌口は非常にデリケートな面があるようです。断面をきれいに仕上げるべきだと書いたばかりですが、漆も数回かけて断面がつるつる光ったものが、かえって音が出にくくなった笛もありました。目の非常に細かいペーパーで断面を少しこすった結果、音が前よりもよく出るようになったのでそう感じたのですが、もしかしたら断面の形状が改善された可能性もあります。)
  7. サンドペーパーがけ…塗装のため紙ヤスリ等で管表面の甘皮をとったりするときには多量の埃が出ます。この埃を吸い込んでしまうと体に良くありません。この作業は外で行う方がよいと思いますが、室内で行うときには防塵マスクをかけた方がよいと思います。
  8. 塗装について…カシュー漆は一度塗ったら乾くまで絶対にさわらないことが肝心です。(一日もすると乾き具合を確かめるために触りたくなりますが、2日以上は放置しておいた方が良さそうです。)また、塗っているとき、ほんの1分程度前に塗ったところの塗りむらを直すため新たに手を加えると、すでに乾きが始まっており、かえって表面がでこぼこになり汚くなってしまいます。狭い範囲を素早くむらなく塗って行くのが良いと思います。
     漆はできるだけ薄く塗ることが大切です。一度で厚く塗ろうとしても良いことはありません。たれたり、乾かなかったり、きたなくなったりします。面倒でも、塗りと乾燥を数回繰り返して厚みのある皮膜をつくるようにします。
     4回程度の下塗りと乾燥・研ぎを終えた最後の塗りは、透明なカシュー漆で塗ることによりきれいに仕上がると思います。しかし、塗りが上手な人ならば、2回程度の色のついた漆だけでもきれいに塗れるかも知れません。
     一度に多量の漆は使いませんので、私はフィルムケースを利用して使う分だけの漆を入れて使っています。なお、きれいに仕上げるためには、空気清浄機などを使って部屋のほこりを取っておくことが大切だと思います。
一番好みの音色の笛 立ち枯れした竹で作ったものです
6穴4本調子(絹糸巻き 拭き漆仕上げ)
H16年8月作製の笛 一般的なメーカーの音程に近いものです
6穴5本調子(銀糸巻き 透明漆仕上げ)
一番良い音色の笛 H16年8月作製の笛
自作した笛のデータ【管尻から各孔の中心までの長さ(mm)】 全 長 内径 外径
指孔(指穴)
(無記入は9×8程度)
1孔 2孔 3孔 4孔 5孔 6孔 (7孔) 歌口 管尻〜管頭 管尻の内径 竹の中央部
古典調6穴6本調子
(歌口 約12×10)
83 106 132 155 179 204 354 410 13.3 20.7
古典調6穴5本調子(1)
(歌口 約13×10)
84 104 127 154 183 212 368 430 12.8 20.6
古典調6穴5本調子(2)
(歌口 約12.5×10.5)
71 101 123 154 189 218 373 432 13.4 20.8
古典調6穴5本調子(3)
(歌口 約12.3×11.3)
(指穴は平均8.5×8.5)
85 109 134 159 188 217 370 425 12.5 20.3
古典調6穴4本調子(1) 
(歌口 約13.3×10.7)
86 111 139 167 196 227 394 450 13.8 21.9
古典調6穴4本調子(2) 
(歌口 約13.1×10.5)
87 112 138 168 198 229 394 452 13.6 21.7
古典調7穴4本調子
(歌口 約13.5×12.0)
(指穴は平均10.0×9.0)
88.8
(やや小孔)
112.5
(やや小孔)
139.0 163.8 191.8 220.0 248.3 412.8 475 14.0 20.5
7穴ドレミ音階C
筒音440HZ
(歌口 約12.3×10.8)
(指穴は平均8×7.4)
78
(小孔)
107 133
(大孔)
152
(小孔)
178 202 224 354 405 12.7 19.4
7穴ドレミ音階B(1)
筒音415HZ
(歌口 約12.4×11.5)
(指穴は平均8.5×8.5)
87
(小孔)
116 145
(大孔)
163
(小孔)
191 216 239 381 441 13.3 21.3
7穴ドレミ音階B(2)
筒音415HZ
(歌口 約12.2×10.5)
(指穴は平均9.0×7.6)
84
(小孔)
114 143
(大孔)
161
(やや小孔)
188 213 237 378 430 12.3 18.7
7穴ドレミ音階B(3)
筒音440HZ
(歌口 約12.2×10.5)
(指穴は平均9.0×7.6)
66
(小孔)
96 125
(大孔)
143
(やや小孔)
170 195 219 360 412 12.3 18.8
7穴ドレミ音階B♭(1)
筒音392HZ
(歌口 約12.3×11.2)
(指穴は平均8.5×8.5)
89
(小孔)
121 151
(大孔)
171
(小孔)
199 226 250 403 455 12.9 20.5
7穴ドレミ音階B♭(2)
筒音392HZ
(歌口 約12.5×11.5)
(指穴は平均9.0×8.0)
76
(やや小孔)
106 133
(大孔)
155
(やや小孔)
183 210 236 386 445 12.0 19.0
7穴ドレミ音階B♭(3)
筒音392HZ
(歌口 約12.5×11.8)
(指穴は平均9.0×8.0)
77
(やや小孔)
106 133
(大孔)
155
(やや小孔)
182 209 235 386 440 12.0 20.0

※赤い字は気に入っている笛のデータ
使った篠竹の太さが多少違い、歌口の大きさも少しづつ違ったのでこのようなデータになりましたが、同じ条件(同じくらいの太さ、歌口の大きさ等)で作れば調子と穴位置までの関係はもう少し規則的なものになったのではないかと思います。(※ 太さや歌口が少しずつ違うためか、作るたびごとに穴位置が変わります。
 (2006/01/10追記)どの笛も周波数を合わせて作ったつもりですが、今測ってみるとずいぶん周波数が違っているものがあります。音の高さは温度に大きく影響されるので、作った日(季節)の気温のせいかも知れません。

ドレミ音階篠笛…穴開けの位置を推定する

ドレミ音階篠笛を作るとき、モデルとなる笛があれば穴位置はそれを真似すればよいので話は簡単であるが、モデルとなる笛がないときは作るのがなかなか難しい。しかし、現在では作ったことがない調子の笛でも、手頃な太さや長さの竹さえ手に入ればそこそこの音程のものが自作できるようになった。というのは、調子によってある程度規則的に穴位置が変化するからである。
 下の写真は上から自作の八本調子(C管)、七本調子(B管)、六本調子(B♭管)、製作途中の五本調子半と五本調子(A管)である。このように調子が小さい笛ほど(長い笛ほど)、歌口から指穴までの長さが長くなっている。したがって、ここにない調子の笛でも下のグラフを見れば、ある程度穴位置が推測できる。実際のところ、製作途中の5本調子半と5本調子(A管)は、指孔位置を類推して作ったものである。
ただし、竹の太さが違うとこの穴位置も微妙にずれる(一般には竹が太くなるほど、歌口から各指孔位置までの長さが短くなると思われる)し、チューナーを使って試し吹きしながら穴の大きさや位置を微調整するのは当然のことである。

いろいろな調子の笛とその指孔位置 ドレミ音階の笛 調子と歌口から各指孔までの長さのグラフ

唄用篠笛(ドレミ音階篠笛)について

唄用(ドレミ音階)の笛唄用(ドレミ音階)の笛
(’05/3/19掲載) 左より順番に
  1. 赤塗り総巻6本調子(B♭管)
  2. 赤塗り天地巻6本調子(B♭管)
  3. 透明漆塗り6本調子(B♭管)
  4. 黒塗り7本調子(B管)
  5. 素竹7本調子(B管)
  6. 黒塗り8本調子(C管)

 一番手間ひまがかかったのは赤塗総巻6本調子で、一番短時間にできたのは素竹7本調子のものです。この素竹7本調子は内側の漆塗りの時間をのぞけば、制作時間がわずか30分間です。歌口側の栓(反射壁)は、竹の節をそのまま利用していますので、穴開けと音のチューニングだけで完成です。しかし、面白いことに音はこれがもっとも良いのです。
 市販の笛は、かけた手間数が値段に反映している可能性があるので、高価なものほど音が良いとは言い切れないかも知れません。また、同じように作ってもできた笛はすべて個性があるので、笛の場合は試し吹きをして自分に合ったものを購入すべきものなのでしょう。
 3番目の透明漆塗り6本調子は、第1孔(右手小指)と第2孔(右手薬指)の間が離れすぎないように工夫したものです。手の小さめの人でも使いやすいと思いますが、各孔の大きさがかなり違ってしまいました。

唄用の笛
自作の唄用篠笛の説明
 自作の唄用篠笛は右の写真(上下どちらも6本調子B♭管です)のようなものですが、正確には唄用篠笛というよりはドレミ音階篠笛と呼ぶべきものかも知れません。(メリ・カリをあまり使わなくても、ドレミ・・の音(周波数)が出るように作っています。)
 一(右手小指)と二(右手薬指)の穴位置が一般的な唄用のものより開いており、三(右手中指)と四(右手人差し指)の間が少し狭くなっています。一と四の穴位置を頭側に寄せ指孔間隔の差をなくすには、これらの穴を小さくすればよいのですが、小さすぎると音の抜けが悪くなるような気がします。三(右手中指)の穴を少し管尻側にもって行くことにより四(右手人指し指)との間隔を広げることができますが、三の穴を更に大きくする必要があります。あまり等間隔の指孔を作ることにとらわれすぎると、穴の大きさに極端に差がある笛になってしまい、音の面で良くないような気がします。
 なお、製作するには最初に歌口を作り、試し吹きをしながら一、二、三・・の順番で穴開けをしていきます。一、二、三の指孔を作るときには、最初に周波数をピッタリ合わせて作っても、五、六、七等の頭側の穴を開けたとき多少周波数が変わってきてしまうこともあります。また、管内の塗りによっても音の高さが変わります。手間がかかりますが、中塗りもした上で全体の音律のバランスを取って微調整しながら作ることになります。
 (ドレミ音階篠笛は製作に時間がかかります。しかし、周波数を測りながら丁寧に製作すると、市販のものよりも音程の確かな笛を作ることができます。)
 特に気に入っている自作のドレミ音階の笛(6本調子B♭管)
自作のドレミ音階の笛
市販篠笛(プラスチック製)と自作篠笛の比較
2005/10/30追加
 見本無しで製作した自作の唄用(ドレミ音階)篠笛が、市販の唄用篠笛と違いがあるのかどうか以前から興味をもっていました。そこでプラスチック製の安価(1,890円)なものですが、よく売れているらしいメーカーの笛を購入して、これと比べてみました。
 右の写真で、上が自作の籐巻き素竹製7本調子(B管)、下が市販のプラスチック製7本調子(B管)です。
吹いてみて、市販のプラスチック製の笛は「良くできている」という感想を持ちました。篠笛特有の味のある音色や鳴りの良さでは竹製にかないませんが、音程もしっかりしておりどの音も均等に出るので、プラスチック製といえども下手な竹製よりも良いという評価は当たっていると思います。
指孔の大きさや孔位置を計測してみると、歌口から測った場合、自作のものと大差ありません。見本を見ずにチューナーを頼りに作っても、周波数を合わせて作ると結果的に指孔がほぼ同じになるのでしょう。
 しかし、大きな違いが一つあります。それは管尻までの長さの違いです。自作のものより第一孔から管尻までの長さが約20mm程度短いのです。結果的に筒音の高さが両者で少し違います。私は何かの本で、筒音の周波数は「移動ド」の音程で「ラ」だと聞きかじっていたので、七本調子(B管)の場合は415Hzになるはずなのでそのように作っていました。しかし、このプラスチック製七本調子(B管)の筒音は440Hzでした。少なくともこの笛は、筒音(全ての指を塞いだ音)が「移動ド」の「ラ」ではなく半音高い「ラ♯」になっていることが分かりました。(固定ドとするならば440Hzは「ラ(A)」であることに違いはないのですが……)
 尺八運指チューナーを七本調子にセットして両者を筒音で吹いてみると、このプラスチック製の場合が筒音の指押さえと一致しており、自作のものでは?マークが出てしまいます。もしかしたら、私の聞きかじっていたことが間違っていて、筒音は「移動ド」の「ラ」と決まっているのではないのかも知れません。もっとも、筒音を使う譜面はあまり多くないので、実用上はさほど大差ありません。(厳密に言うと0の音の高さも少し違い、この音を吹くときのカリの具合も若干違います。)
 あとプラスチック製篠笛の二と三の孔は、ほんの少し斜めに穿っており、これは半押さえの「二メ」や「三メ」の音が出やすくする工夫かも知れません。これからの笛作りの参考にさせてもらおうと考えています。
上が自作のドレミ音階7本調子(素竹籐巻き製)
下が市販のドレミ音階7本調子(プラスチック製)
上は自作の7本調子 下は市販プラスチック製7本調子
きれいな指孔をあける方法
 ハンダゴテ等である程度の大きさまで焼いてあると、切り出しナイフを使って比較的きれいな穴が開けられます。仕上げにヤスリやルーターを使うと、もっときれいな指孔が開けられます。写真は1600円で手に入れたルーターですが、上の素竹籐巻B管はこのルーターで最後の仕上げをしました。ただし、注意点が2つあります。
 一つ目は、うっかりすると削りすぎてしまうことがあります。きれいな穴にしようとして使いすぎると、音が高くなってしまい二度と元に戻せません。チューナーで音程を確かめながら少しずつ削るようにします。
 二つ目は、回転の勢いがよすぎて穴からはずれて竹を傷つけることがあることです。写真の素竹籐巻B管はこのような傷がいくつか付いてしまっています。マスキングテープ等で保護して作業すればよかったかも知れません。
1600円で手に入れたルーター
鳴りの良い笛を作る試み
2005/12/29 & 2006/01/01追加
 音色を気にせず、音が良く出ることのみを目指した笛は、どのようなものになるであろうか。 いくつかの仮定をもとに笛作りを試みた。
 右の写真で、上は普通に作った6本調子(B♭管)(籐巻き)、下が鳴りの良いものを作ろうとの意思で製作した6本調子(B♭管)(金色塗り)である。
  • 仮定1 鳴りの良い笛を作るには材料の選定がもっとも重要である。年数が経っている竹の方が鳴りが良いと思われる。年数が十分たっていない竹は内側の組織に必要以上の弾力性が残っており、音を出す際のエネルギーがよけいにいるのではないかと考えている。煤竹が良いと言われるのも、組織がある程度炭化されエネルギー的な無駄が小さくなり良く響くようになるのであろう。…立ち枯れした竹を更に2年間寝かしたものを使った。(理想的にはもっと古い竹を入手し、煙で長期間燻せばよいのであろうが、実際にはそのような竹が入手できず、時間も手間もそこまでかけられない。竹を採り始めたのが2003年なので、手持ちの中から、枯れていた年数も合わせて考えて良さそうな竹を選んだ。)
  • 仮定2 管の肉厚は厚くない方がよい。肉厚がありすぎると、気柱の空気の振動が笛本体を振動させるのにたくさん使われてしまい、エネルギーが無駄になってしまうと考えている。…内部を紙ヤスリ(棒に紙ヤスリを貼り付けたもの)で念入りにみがいて柔らかい組織を落とすとともに、肉厚を若干薄くした。(薄くし過ぎると音色としてはもの物足りなくなる。)
  • 仮定3 籐巻きはしない方がよい。籐が巻いてあると管の振動が押さえられてしまう。音は指孔を通して外に出るものが大部分であると考えられるが、一部は笛本体の振動によっても空気を震わせて外に伝わっていると考えている。(ただし、籐巻きをした方が、音が締まり好みの音になることが多い。)…通常は籐巻きをすることが多いが、この笛はしなかった。
  • 仮定4 管頭側や管尻側の長さは、必要以上に長くしない。この部分が長いとエネルギー的な無駄が出やすいと考えている。音をつくるのに関係のない部分によって音の振動が吸収されてしまい、エネルギー的な無駄になりやすい。…管頭側の長さを極力短くした。また、管尻側も短めにした。通常自分が作っている笛の筒音は「ラ」の音程であるが、この笛は「ラ♯」にした。
  • 結果とまとめ  現在のところ、今までで最高の鳴りの良さとは言えないが、かなり上位にランクされる笛であることに違いはない。年数がたち塗料もさらに硬化してきたらもっとよく鳴ると思われる。しかし、篠笛の形が一般的なものと異なり、特に管頭側が短いために見た目のバランスがよくない。また、金色に塗装してしまった関係もあるかも知れないが、篠笛としての趣に少し欠け、持つ喜びのようなものは感じにくい面もある。
     篠笛の形が昔からあまり変わらなかった理由は、鳴りの良さを追求する以外の面も関係していた可能性がある。音を出すのに関係しないと考えられる管頭側の部分も、重さのバランスをとったり余分な振動を吸収するなどして、音色づくりにも何らかの貢献をしていると考えられる。
  • さらに考えられること   トランペットやホルンでは管尻側がアサガオの花のように広がっており、管内の空気と外の空気のインピーダンスをマッチングさせるのに役立っている。このために音がよく出る(特に高音)ようになっている。篠笛の場合も管尻側の径を広げたり、ラッパ状のものをつけることによって音がもっと出る可能性があると以前考えたことがある。しかし、トランペットやホルンなどと篠笛・フルート等のエアリード楽器では、構造や音の出し方が違うのでこれは当てはまらないであろう。篠笛の音は歌口や指穴などの各孔から主として出ているものと思われる。
 個人的な考えであり、仮定自体が間違っている可能性もあります。参考程度にとどめておいて下さい。

上が普通に作った6本調子B♭管(素竹籐巻き製)
下が鳴りの良さを試みた6本調子B♭管(カシュー金色塗装製) 上が自作の6本調子(素竹籐巻き製)、下が鳴りの良さを試みた6本調子(カシュー金色塗装製)

6.分かったことと感想
 現在までに、100本以上の笛を作ってきましたが、これまででいくつか気がついたことを書きます。
まず、良いものを作るには何と言っても材料が重要です。特に音の響きについては、材質が重要なような気がします。自宅に保管してある300本あまりの篠竹の中でも、適度な太さで堅く目の詰まった良質の竹はあまり多くはありません。また、何年か自然乾燥させたものが良いとのことですが、だめな材は何年たってもだめだと聞いたこともあります。普通のものなら、吹き込んでいるうちに、だんだん音が良くなるようです。吹き込むことによって、周波数ごとによく響く音ができてくるようです。
 他のWebをみると、音に一番大きな影響をおよぼすのは管の内径の変化だと書いてあります。歌口から管尻に向かって竹が徐々に細くなって行きますが、この内径の変化のしかたによって音に大きな差があるそうです。
 竹は割れるということがちょくちょくあります。自然乾燥させているうちにヒビが入ってくるものもありますし、製作途中で割れるものもあります。穴を開けるときに、ドリルの細い刃が斜めになってしまい、テコのような力がかかり割れてしまったものもありますし、せっかく音程のとれた穴あけが終わり次は内部の塗装と期待してても、朝になってみたらヒビが入ってしまっているものもありました。冬場の乾燥で割れてしまったようです。もともとの材料がだめだったのだと思いますが、やはり数年寝かしても割れなかったものを使うのが一番なのでしょう。
今回、黒田氏の作成した尺八運指チューナーの利用価値を再認識しました。笛作りにとても重宝しました。音感のある人ならこれがなくても見本品と吹き比べながらでもできると思いますが、チューナーのお陰で素人でも市販のものに遜色のない音程のものができるのではないかと思います。(しかし、実際には囃子笛の場合、音程よりも音色が大切なのかも知れません。)
 なお、見本の笛と同じ太さの篠竹が用意できれば、製作はかなり簡単です。見本笛の太さと用いる篠竹の太さが違いすぎると、チューナーを使っても穴位置の決定は楽ではありません。見本笛より太すぎたり細すぎたりすると指穴の位置が少しずつ変わってきて、製作は大変です。(もしかしたら太さではなく、開けた歌口の大きさの違いによって穴位置が変わったのかも知れませんが…)5月に完成した笛(管内はすべて赤塗) 下の2本は高水山獅子舞用の笛 2006年10月に完成した高水山獅子舞笛
また、見本の笛がなくても一本目は試しのつもりで作れば、チューナーを使うことにより目的の調子の笛が作れます。(この場合、1本目は捨ててもよいような竹で作る。)最初は試行錯誤で穴あけをしていき、音程をとるために倍以上も大きい長円形の指穴になってしまったり、間違った穴をガムテープ等でふさぐ必要もありますが、このデータを2本目で使えば充分製作が可能です。事実、4本調子以外は試行錯誤で作りました。ただし、正式に作る2本目の竹は試しに作るものとほぼ同じ太さで歌口も同じ大きさにする必要があります。なお、竹の太さも作ろうとする調子によって、それぞれ適当な太さがあるようです。
※計算式によって周波数と穴位置の関係を求めることも不可能とは言えないが、開口端補正をどのくらいにしたらよいのか見当がつかず、やはり見本となる笛をもとにチューナーを利用しながら作るのが一番確実であると思われます。
(※ 計算式は物理関係の本に出ていますが、管径が少しずつ変化する自然素材の篠竹について、その穴位置と周波数を厳密に計算で出すのは容易ではないようです。)

篠笛作り Q&A (2005/4/24 初出)
 笛作りを初めて試みた時から現在までに徐々に分かってきたことをそのまま書き加えてしまっていますので、今となってはおかしなところも多々あります。いずれ、書き直さなくてはならないと思いながらも、忙しさにかまけてそのままになっています。一からの書き直しも大変なので、この数ヶ月間にいただいた質問に対する自分なりの回答をその後の知見として書き加え、一部書き直しもさせていただきました。(なお、私は笛作りについて素人で、正しいとは言えないところもあるかと思います。参考程度に留めておいて下されば幸いです。)

(Q)中島様は尺八運指チューナーで古典調の篠笛を作っておられるようですが、尺八運指チューナーで示される周波数は、古典調のものではなく唄用のものではないでしょうか。
 (A)私の勘違いでした。ご指摘のとおり尺八運指チューナーで示される周波数は唄用のものです。最初の時勘違いしていましたので、初期に書いた文がそのままになっていました。(現在、この部分は誤解のないよう削除してあります。)
おそらく古典調の決まった周波数というものは存在しないのではないかと思います。したがって、古典調の笛を作るときには、一番気に入った笛の周波数をあらかじめ測定しておき、尺八運指チューナーで確認しながら同等のものを作るようにしています。

 (Q)漆がなかなかきれいに塗れませんが、どうしたらよいのでしょうか。
 (A)漆をきれいに塗るためには、表面がしっかりした平滑面になっていることが大切だと思います。「塗りー乾燥ー研ぎ」を納得できるまで繰り返す(高水山獅子舞笛 平成23年9月完成)
漆を塗る前にすることは、笛表面を平らな台木に貼り付けた紙ヤスリでこすり、甘皮と出っ張った部分を削って平らにしておくことです。次に目の細かい紙ヤスリに換えて前の紙ヤスリでできた傷を消すようにすれば綺麗な平滑面が出来ると思います。
 この後、最初の漆をかけます。4日間ほどして最初の漆が乾いたらもう一度漆をかけ、次は研ぎを行います。
 研ぎについては、下塗りがきちんとしていれば少し水がついても大丈夫なので、耐水サンドペーパーで水研ぎをしています。
 きれいに仕上げるためには、塗る−乾燥−研ぎをさらに数回繰り返せば、ほぼ満足できる平滑面ができますので、その後で仕上げの塗りをすれば良いのではないかと思います。これで滑らかで美しい光沢を持つ笛を作ることができるのではないでしょうか。
 (※仕上げの漆は、私の場合は透明漆を使うようにしております。歌口や指穴の断面の色(赤が多い)と笛表面の色(主に黒)が違うことが多いので、透明漆ならば両者の境目に気をつかわなくてもすみ、一緒に仕上げ塗りをすることが出来ます。)
 なお、カシュー漆は原液をそのまま塗るよりも、少しだけ薄め液を加えた方がよく延びて塗りやすいかも知れません。筆に塗料をつけたら3,4cmの幅で3周くらい竹を回しながら均一になるように筆を動かします。漆を少し筆につけてはこれを繰り返して、だんだん下まで移動し全部を塗ります。最後の管尻部分を塗るときは手では持てないので、管の中に長い棒を栓まで入れて塗るようにします。

<2011/10/01> 仕上げ塗りの注意点
 仕上げ塗り(最後の塗り)の際には埃の付着に特に注意する必要がある。せっかく満足のいくきれいな平滑面ができても最後の仕上げ塗りで埃が付着してしまっては台無しである。そのため、最後の仕上げ塗りの時には事前に空気清浄機等で部屋をきれいにしておくのがよいと思われる。また、刷毛や塗料を入れる容器にもゴミや埃がついていないよう留意する。もし、ゴミや埃がついている場合は薄め液等で何回も刷毛や容器を洗っておく必要がある。このような手間をかけることによって、納得の一品を作ることができます。ただし、楽器としての笛の性能については、塗りのきれいさとはあまり関係がないとも考えられます。

 塗装済みの笛の中で塗装面が何らかの理由で傷つくと、塗膜がペロリとはげ落ちてしまうものもあります。特に、顔料入りの色カシュー漆で最初から厚く塗ってしまった場合に剥がれやすいという気がしています。これは一番最初の塗りで、竹と塗料がうまく密着しなかったためだと考えられます。最初の塗装は次からの塗装の下準備と考えた方がよく、竹表面にいかにカシュー漆を染みこませるかに気を配るべきです。そのため、あらかじめ適度な目の粗さの紙ヤスリで表面をケレンがけしておくとともに、薄め液を適量加えたカシュー漆で薄く均一に塗るようにします。2度目以降の塗装でもその都度目の細かい紙ヤスリで研いで塗装して行くと、4〜5回の塗装で鏡のように綺麗な塗膜ができます。
 本漆を使う場合には、最初の塗装であっても竹によく密着するように感じています。

<2011/01/22> 本漆とカシュー漆
 本漆がカシュー漆や人造漆より優れていることは明白である。本漆は、細心の注意で作業しても肌かぶれを起こしてしまい、乾燥については、温度の管理も大変な上に湿ったところでないと乾かないという特殊性があり、扱いがとてもやっかいである。しかし、美しさはもちろんのこと、堅牢性と柔軟性という相反する性質を持ち合わせており、笛の塗料としてはこれ以上のものはなかなか無いと思われる。何よりも竹材によく染み込み(竹のつるつるした表皮は紙やすり等で削って塗る)、竹材との密着性が抜群に良い。※ただし、アロンアルファで硬化させた反射壁については、カシュー漆の方が本漆よりも密着性がよい。アロンアルファで硬化している反射壁(シアノアクリレートがポリマーになった状態)は、漆成分が染みこみにくいからであろう。 「これなら百年以上経っても剥がれないだろう」と塗っている段階でも感じさせるものがある。そして、数百年経っても劣化しにくいことは歴史が証明している。
 音質についても本漆の方が上であるように感じるが、これについては感覚的なものであり客観的なデータはない。

<2013/08/09> 本漆とカシュー漆を塗り重ねる場合の注意点
 最初に本漆を使ったなら、数度にわたる塗り重ねもずっと本漆で統一すべきである。しかし、本漆は扱いがやっかいな上に皮膚かぶれの恐れもあるのでこれを行うのは大変である。そのため2度目や3度目の塗装は簡便なカシュー漆で済ませたくなるが、この際には注意が必要である。
 それは、下に塗った本漆が完全に乾いていないと、カシュー漆がいつまでたってもベトベトし、乾かないという事実である。本漆に含まれる成分の中にカシュー漆の乾燥を阻害する物質が入っていると考えられ、本漆が乾いたように思えても1年ぐらいは間をおいてから塗った方が無難である。私の場合は、本漆を塗って半年たってからカシュー漆を塗ったものでも、いつまでもカシュー漆が乾かなかった経験がある。本漆を塗った後は、最低でも1年程度しっかり乾燥させてから、カシュー漆を塗った方が良いと思われる。
 本漆のみで塗り重ねをする場合(これが正統的な方法)は、もっと短期間の乾燥で上塗りすることができる。

 (Q)できあがった笛が、高音は良いのだが低音が鳴りません。どうしたらよいのでしょうか。
 (A)音律にシビアでなければ(ドレミ音階の笛でなければ)、丸棒ヤスリ等で全体の内径を少しだけ広げると良いかも知れません。管内の塗りがとれてしまいますので当然のことですが漆を塗り直さなくてはなりません。
一般に竹の内径が細いと高音が、太いと低音が良くでるようです。竹の太さによって適する調子(大きさ)の笛があると思います。私は、太めの竹では4本調子などを、中間の太さで6本調子など、細めの竹では8本調子などを作っています。この関係を自分で見いだすのは大変で、最初は市販の笛を参考にさせてもらいました。

 (Q)どのような篠竹が笛作りに適しているのでしょうか。
 (A)直感的なもので検証したわけではありませんが、竹はできるだけ素直なものの方が良いという印象があります。自然素材の竹は、多かれ少なかれ曲がっていたり断面の形状も円形とは限りません。断面が楕円形どころか場所によっていびつな形をした竹もあります。また、竹の太さの変化も一様ではなく、管頭側と管尻側の太さの差が極端に違うものもあります。
 自分が作ってみた範囲では、素直な竹(断面が円形で、曲がりも少なく、径が管尻に向かって徐々に小さくなる竹)で作ったものの方が、吹きやすいという気がしています。一般に、使った竹の形状・材質とこれからできる笛の関係は、ほぼ見た目通りであるという印象があります。曲がっていたり太さの変化のしかたや断面の形状にくせがあるもので作った笛は、音の出方や吹き心地にもくせがあり、柔らかい竹で作ったものは音も柔らかく、堅い竹で作ったものはよく通る音が出ます。好みがあるので一概に言えないと思いますが、竹の堅さの面では、生育して3年〜5年くらいの竹が一番良いように感じています。

良い竹の見つけ方・採り方 <2005/11/26初出><2009/01/01写真追加>
 笛を作れるくらいの長い節間を持ち、生育年数が3〜5年の良質の篠竹を見つけるのはたいへんである。このような竹は数が少なく、手に入れるのは簡単ではない。まず第一に節間が44cm程度以上という条件を満たすもの自体があまりない。篠竹林3〜4年目の竹の採取小さな篠竹林では、恐らくこのような竹は一本も見つからないであろう。大きな篠竹林の中でのみ探し出すことが出来る。
 うっそうとした大きな篠竹林に踏み込むと、回りよりも少しでも背を高くして伸びようとするのか、節間の長い竹を見つけだすことができる。面白いことに、そのようなものが一本見つかると、その回りにも条件の合う竹が割と見つかるものである。林の南側より、太陽の当たりにくい内側や周りよりも少し低い窪んだ場所に長い竹が生えている確率が高い。
 また、年数が1年目の竹では笛はできない。2年目の竹もまだ柔らかすぎる。年数が3〜5年程度の竹は表面のようすと枝の付きぶりを見ることによって、ある程度推定できる。若い竹は表面がきれいな緑色で竹皮もきれいであるが、古くなるほど黒ずんで汚れてくる。3年目の竹皮はものによってはボロボロに朽ちだしている。それとともに、3年目程度になるとたくさん枝がついていることが目安になる。篠竹の枝は1年目ですべて出揃うのではなく、上の方から下の方に向かい年ごとにだんだんと枝を出していくようである。(このように注意したつもりでも1〜2割は2年未満の竹を採ってしまうことがある。数週間陰干ししてるとだんだんしなびてくるので、その時になって採る時期が早すぎたと後悔することがある。節間の長い竹は多くないので申し訳ない気もしている。)
 長さや年数の条件を満たしていても、虫が食った竹は使い物にならない。中に虫が入った竹は、どこかに小さな穴が開いており笛にはできない。割ってみると、内側に虫食いの道が溝のように出来ていて、粉状になった虫の糞もたくさん出てくる。このような竹は、蟻が入り込んで巣をつくっている場合もある。
 竹は真っ直ぐであるというイメージがあるが、実際には多かれ少なかれ微妙に曲がっている。矯正できそうもないほど曲がっているものは、笛にしたとき見栄えが悪く性能もあまり良くないものになってしまうので避けるようにする。
 表面の摺れや汚れについては、表皮を剥ぎ取って仕上げたり漆塗りにする場合には関係がないので、私の場合はあまり気にしないで採っている。(表面の甘皮をとって仕上げると、かえって味のある美しい模様が浮き出るものもある。)竹皮を剥いてみると内側の竹表面にオレンジ色のカビ状のものが盛り上がってついているものもある。カビによって表面の養分は多少奪われたであろうが、塗り笛にするなら関係ないだろうということで、長さや年数の条件が合うなら採ることにしている。また、ゴマ粒大の茶色で扁平な何かの卵らしきものが、竹皮と表皮の間にびっしりとこびりついているものがある。押すとプチプチと液を出してつぶれるので気持ちのよいものではないが、笛作りには支障なさそうなのでこういうものも採っている。もちろん、家に帰ってから、これらはよく落としている。 4節の笛材
 竹の生育場所で材質が違うと考えられるが、私の採っている場所は湘南地方とはいえ畑も丘陵もある内陸部であり、冬はかなり寒くなり竹の材質としてはまずまずであると思われる。当然のことであるが、竹は一本一本すべて太さの変化のしかたや材質が違い、同じものは二つとない。これから作られる笛も一本一本違うのは当然の話であろう。
 採る季節は、竹の水分が少なくヘビや虫も少ない秋から1月くらいまでがよいと思っている。以前、立ち枯れした竹を夏場に採ったことがあるが、ヤブ蚊に悩まさたうえに汗だくになり大変であった。
 なお、青竹ではないが、花が咲き立ち枯れしてしまったものからもよい笛を作ることができる。立ち枯れした篠竹林に入ってみると、堅くて良質の良い竹がとれることがある。このような竹は重みもそこそこあり、叩いてみると良く響く音がする。青竹のように数年間も寝かせる必要がなく、すぐに笛にできるので便利である。枯れたものの中には、若くして病気で枯れてしまったものも混じっているが、これは使い物にならない。切ってみると楽に切れ重さも非常に軽く、外観の色が変に黄色っぽいので、慣れてくると見分けられるようになる。また、年数がたちすぎたために立ち枯れになっているものもある。中の組織がもろくなっており、切り口から内部を固いもので押すと簡単にへこんだり傷ができたりする。当然のことながらこのような竹も笛作りには適さない。
 竹の生育場所・年数および乾燥のさせ方・油抜きの時期等で材質が変わるが、一般的には柔らかい竹は音も柔らかい感じがし、堅い竹は音がよく通るような気がする。重い竹(笛)は音を出すのに力がいり、軽い竹(笛)は簡単に音が出る。しかし、楽に音が出る竹(笛)は深みに欠け、あきやすいという気がしている。
 ※ 青竹は乾燥させると径が少し細くなる。したがって竹を採る際には、作りたい笛の太さのものより若干太い青竹を採ってきた方がよいと思われる。
篠笛は篠竹で作るものですが、平成17年4月10日に故郷の「高水山の獅子舞」で聞いた話ですが、かなり昔(100年〜200年以上前)の笛には「梅の木で作った笛」があるとのことです。これを持っているのは現地の人に聞いたところ、私の幼なじみの方なのですが、残念ながら数年前から海外に赴任しており当日会うことができませんでした。梅の木でいったいどのようにして笛を作ったのか興味があります。

(Q)笛が割れてしまうのはどこに原因があるのか。<2009/01/01初出>
 (A)通常の使い方で笛が簡単に割れてしまうようなら、その責任は使用者(持ち主)ではなく笛の製作者にあると考えている。笛の製作者が笛用にきちんと前処理をして管理してきた竹材で作ったものならば、冬場の乾燥期においても割れてしまうことはほとんど無いと考えている。
私自身、これまでかなりの数の笛を製作してきたが、笛の製作を試み始めた初期の頃には割れてしまうものもあったが、現在では真冬でもほとんど割れることは無い。その大きな要因は使う竹材が変わってきたからである。製作を始めたばかりの頃は、竹材の蓄えがなく、立ち枯れした篠竹で多くの笛を作ってきた。しかし、現在では青竹採取後に少しばかり手間をかけたものを3年以上も管理してきた竹で作る場合が多く、めったなことでは割れることがない。
 立ち枯れした篠竹は林の中で自然乾燥するため、始めの太さを保ったまま乾燥することになると思われる。乾燥すれば水分が抜けた分収縮するのが自然であるが、節があり堅い表皮でおおわれた竹は、内部の乾燥が表皮の乾燥よりも大幅に遅れ、細くなることができにくい。このような竹は、笛にする前はもちろん、笛に加工した後でも、水分が抜けた分だけ組織どうしが接近しようとする無理な力が加わり続けていると考えられる。実際、立ち枯れした篠竹林に入ってみると、このような力に耐えきれずパックリと割れてしまった竹がたくさん倒れている。

立ち枯れした竹は割れやすい

割れない竹材・虫の被害のない竹材の作り方
 笛用に適した3〜4年程度の竹を採ってきたとしても、採取直後の適正な処理とその後の管理をきちんと行わなければ良い竹材にはならない。 それは、2つの理由からである。一つは先ほどから書いてきた割れの問題であり、もう一つは竹に着いた汚れや菌類・虫の卵等から派生する問題である。
製作を試み始めた初期の頃の話であったが、ある時、部屋に置いた竹材の束に小さな蛾が数匹たかっているのを発見した時があった。これは、竹材のどこかに産み付けられた虫の卵が残っており、これが孵ったものであると思われる。また、きれいにした竹材でないと、湿り気がある季節ではカビがはえる可能性もある。このように、笛を作るまでの間、ただ竹材を放置しているだけでは材質を損ねる可能性がある。つまり、採ってきた篠竹をそのまま束ねて、雨のかからない軒下等に置いただけでは虫食いの被害が他の竹にも広がったりして歩留まりが悪くなってしまうと思われる。もちろん、このような竹材からでは良質の笛もできにくいであろう。殺虫剤や防虫剤をスプレー等で竹材に吹きかけておくことも有効だろうが、これだけでは前処理が不十分である。

採取後の竹材の適正な処理の仕方(個人的な考え)
  •  「採取後の竹はすぐに節ごとにカットする。節もドリル等で穴を開けておく。」 → 速く乾燥させ、無理のない太さにすることによって、割れにくい笛材とすることができる。
  •  「汚れをしっかり落とす。落ちにくい節の部分の汚れもたわし等でよく落とす。」→ 汚れはもちろん、虫の卵や菌類の胞子等も落とす。
  •  「すぐに天日干しする。」 → 紫外線で表皮を白くするとともに、乾燥した天気の中で水分を抜く。最初の10日間程度は特に天日干しをしっかり行う。幸いなことに冬の関東地方は竹の乾燥に最適である。
  •  「油抜きはあまり後にしない」 → この作業によってカビ等の養分になる有機物を少なくし、菌類等も死滅させることができると考えられる。この作業を行った竹は、湿ったところに置いたとしてもカビが発生したりすることは少ないと思われる。私は油抜きは採取後2ヶ月〜6ヶ月で行っているが、天日干しがしっかりできればもっと早い時期(2週間〜4週間後くらい)の方が良いと考えている。

 現在、竹の採取後の一番良い方法は、「竹を一節ごとに切って熱湯で煮てしまう」方法だと考えるようになった。すぐ煮てしまえば、汚れを落とす作業も楽になり、竹の表皮に着いていた菌類や産み付けられた虫の卵等も死滅させることができると思われるからである。何よりも、菌類等の栄養分になる有機物を早い段階で取り除くことができる。
 写真は、家にあるものでこの方法(煮てしまう方法)に近い方法を試みたものである。大釜やドラム缶が無いので、今回は風呂で代用することにした。ただし、風呂では100℃もの高温にするわけには行かないので、50℃ほどで長時間(12時間)の加熱にしてみた。50℃では気休め程度の温度であろうが、少しでもよいと思われる方法を試したつもりである。お湯に長時間浸したものでも、乾燥後は十分堅くなり、最初から乾燥させたものとくらべても遜色がない。数ヶ月後に火であぶる通常の油抜きも行えば完璧であると思われる。 ※ただ、最初に煮てしまう油抜きは、火であぶる油抜きと比べて竹の光沢が少なくなる。(2009年1月の考えであり、今後考えが変わって行くこともあります。)

お湯に12時間浸す カットした青い篠竹の自然乾燥 

(Q)管の内部の漆塗りはどんな意味があり、丁寧に塗る必要があるのでしょうか。
 (A)一番大きな理由は、甲音や大甲音を楽に出せるようにすることだと思います。内部の塗りを施さない笛もそれなりに良い音色ですが、高音が出にくいので色々な曲に対応するには難しさがあります。
 また、管内の漆塗りによってカビや菌類の増殖が押さえられ、結果的に笛が清潔で長持ちするという理由もあるのではないかと思います。
 丁寧に塗る必要があるかどうかについては、丁寧に塗るにこしたことはないと言っていいと思います。実際、丁寧に塗られた笛の方が雑音が少ないように感じます。しかし、あまり何度も塗りと研ぎを重ねて鏡面のように仕上げてしまうとかえって篠笛の音色が失われてしまうという欠点もあります。
 また、感覚的なものですが、中塗りも丁寧に作った笛は愛着もわき、好んで吹くせいか音が良くなっていくような気がします。
 管内をきれいに塗る方法はいくつか試みました。
まず、スポイト等で各孔にカシュー漆をたらしてから内部を塗装します。カシュー漆を入れる容器はフィルムケースが使い捨てにできるので便利です。(容器としてフィルムケース以外の小さなプラスチック製容器も使ったことがありますが、ものによっては薄め液等で容器が溶けることもありました。)
 一時、スポイトを使わずフイルムケースの上端を手で押さえつけて細くして漆を各孔に滴下していましたが、現在は再びスポイトを使うようにしています。塗装が終わるつどスポイトを薄め液で洗わねばなりませんが、フィルムケースから直接滴下すると、穴からそれて管を汚してしまうことがよくあります。笛と漆の間に静電気が起きてしまい漆の落ちる方向が曲げられて穴に入らないのかも知れません。
 漆を滴下した後、布を巻きつけた長い棒で管内を塗装しますが、この布はゴミくず(繊維等のゴミくず)が出ないものを利用します。(私は、ストッキングの切れ端を巻きつけて使っていますが、もっと良いものがあるかも知れません。)
 きれいに塗装するには、やはり手間暇がかかります。私は最低でも3回は塗装した後で、棒に巻きつけた耐水サンドペーパーで管内部を軽く水研ぎしてからもう一度漆をかけています。このことにより光沢のある塗装ができます。(塗料を何回も塗り重ねすぎると、篠竹本来の音色とは違ってくるという話も聞いたことがあります。)
 ※中塗り1回目の塗装の後は、十分日数を空けてから2回目の塗装をすべきだと思います。1回目の中塗りでは竹の中まで塗料が浸透するために、乾燥にかなりの時間がかかります。しばらくは臭いもかなりします。1回目の塗料が乾燥し臭いも十分とれるまでは、次の塗装を控えた方が良いと思います。

 (Q)マスキングテープをよく使うということですが、どこで使うのでしょうか。
 (A)マスキングテープは便利な小物としてよく使います。例えば、見本の笛と同等な笛を作ろうとしたとき、穴位置の写し取りに使います。まず、マスキングテープを見本の笛に貼り、穴位置をサインペン等で写し取ります。それを、これから笛を作ろうとしている竹に貼り、穴位置を開ける目安にします。ただし、ハンダゴテで穴を開けるときには、熱でテープのノリが溶けて穴位置の回りが少しベトベトします。後で有機溶剤等でふき取る必要があります。
籐を巻くための表皮を削り取る目安にマスキングテープを巻く あと、竹をノコギリで切るとき、竹の表面がささくれてしまうことがありますが、あらかじめマスキングテープを貼っておいて一緒に切断すればささくれがかなり防げます。
 また、制作途上で傷を付けたくない部分を保護したり、塗料を乾燥させるために、仮に位置を固定しておきたいとき等にもよく使います。
 写真は、巻き終わった籐のもう少し上部に(約1cm管頭側に)、籐をもう一カ所巻くためにマスキングテープを使った例です。テープとテープの間の幅5mmほどの狭いところに籐を巻くわけですが、テープを使えばこの位置がうまく決まります。そして、この狭い部分の表皮をナイフやヤスリで削り取るわけですが、この作業がとてもしやすくなります。傷つけたくないところの保護にもなります。

 (Q)竹は油抜きをして使いますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
 (A)笛に限らず竹細工で使用する竹はほとんど油抜きをするようです。特に水にぬれやすい竹製品の場合は油抜きは必須で、これをしないと腐りやすいようです。 篠笛の場合は内側に漆等が塗ってあるものが大部分なので、油抜きをしなくても腐るとは思えませんが、湿ったところに長い間置いておくと、カビ等が生じる可能性があるのかも知れません。
 実際、油抜きをしてみると、加熱によって切り口から蒸気や汁が出るときに青臭いにおいもかなりします。いろいろな成分(有機物)が入っていることが予想されます。
 しかし、もう一つ別の理由があるのかも知れないと考えています。自分の考えでは、竹に熱を加えると竹の性質が少し変化し前より堅く引き締まるように思います。油抜きをした竹を指先で弾いてみると金属音に近い音に変化します。音をよく出すには材質が堅い方が理にかなっていますので、油抜きにはこのような理由も考えられます。
 なお、油抜きと矯正(竹の曲がりをなおす)は同時に行いますが、これは一回ですませた方がよさそうです。矯正が充分でなかったからと、日を改めてもう一度加熱して曲がりをなおそうとしても、それ以上はなかなか真っ直ぐになりません。無理な力をかけると割れることもあります。
 また、竹は自然乾燥させている最中で割れるものが若干ありますが、この油ぬき・矯正によっても割れる(※)ものが少し出てきます。 特に、冬場に笛作りをするときに、油ぬきを行ったばかりの竹で穴開けをすると、翌日あたりに割れていてがっかりすることがあります。油ぬき・矯正の後はしばらく保管しておき、ヒビが入らなかった竹だけを笛作りに使った方が時間と労力の無駄になりません。(※ 自分の経験では、立ち枯れした竹を使う場合に、その油抜きの後に割れるものが多いようである。反対に青竹を採ってきてすぐに節ごとに切って乾燥させたものでは、油抜きをしても割れるものが少ないようである。青竹を節ごとに切って乾燥させた場合は短時間で水分が抜けて竹が細くなるのに対して、立ち枯れしたものでは節があるため内部までなかなか乾燥せず、元の太さをずっと保っているようである。そのため、油抜きの加熱で水分が急に少なくなると収縮して細くなろうとし、割れやすいのではないかと考えている。)
 油抜きを行う時期によって、竹の材質に差が出てくる可能性もあります。笛作りにもっとも適したものを得るために、油抜きをいつ行えばよいのかということについて検討していますが、いまだによく分かりません。油抜きを行う意味が、含まれている不要な成分を除くことなのか、堅く焼き締めることなのかといったことによって考えが変わります。不要成分を除くならば、採ってきたばかりの竹をすぐに油抜きすべきです。しかし、加熱によって汁が多量に出るため作業に長時間を要し、竹が急速に縮んでいくのが分かるくらいです。急速に収縮した竹は笛の材料として疑問を感じますし、これを数年ストックして置いた後に、果たして最初から自然乾燥させたもののように堅い竹になるのかよく分かりません。
 一方、1年半以上も長い期間乾燥させたものは不要物を取り除くという意味で条件がよくありません。2003年の暮れに採った竹を2005年8月に油抜きしてみましたが、真夏の暑い時期と冬の乾燥した時期を経たので竹の水分がかなり少なくなり、加熱しても蒸気や汁がほとんど出ませんでした。油抜きの目的の一つが竹に含まれている不要物(有機物)を除くことならば、あまり乾燥させすぎるのはよくないのかも知れません。  
 しかし、竹細工に使う竹が腐りにくさやカビが生えない竹を重要視しているのに対し、笛の場合は竹を堅くして鳴りをよくすることにウェイトがあるのかも知れません。したがって、油抜きの時期は青竹採取後半年以上たって、水分が徐々に抜け竹が自然に堅くなってからの方が良いのかも知れません。(いまだに検討中です。なお、他のWEBを見ましたら、竹細工等で使う竹は、青竹を採ったらすぐに薄い苛性ソーダで煮てしまうという方法もあるようです。しかし、この方法は加熱による油抜きよりも質的に若干劣ると書いたページも発見しました。)
 油抜きは炭火で行うのがベストなのでしょうが、普通はガス火を使わざるを得ません。焦げないように油抜きをするには、遠火で時間をかけて加熱するのがよいでしょう。油抜きをする際にはやけどしないように軍手をして作業します。曲がりの直し方はいろいろありますが、私はあらかじめ曲がりの様子を見ておき力を加える部分に鉛筆等で印をつけておき、加熱した後すぐにこの部分に力を加え(木の切れ端(桐の端材等)を片側(もしくは両側)に置き、これに竹をのせて足等で押さえつける)ています。すぐに力を除くと元に戻ってしまう竹も多いので、竹が十分冷えるまで(10分間程度)力を加え続けます。素足ではヤケドするので、私は底の厚いスリッパを履いて行っています。それでも足裏がかなり熱くなります。
 油抜きは、竹の矯正のためにも必要な作業であるという見方もできます。曲がっている竹で笛を作ると癖のある笛になってしまうことが多く、一般的には吹きやすいとは言えないと思います。竹を加熱して水分や蒸気がたくさん出ている状態は、竹を矯正しやすい状態です。このためにも、熱を加える油抜きという作業が必要なのかも知れません。(ただし、あまり曲がりすぎている竹だと直しきれません。無理に真っ直ぐにしようとして力を加えすぎると割れてしまいます。)
 なお、加熱時間が長すぎて水分が完全に抜けてしまうと、今度は堅くなってしまって曲がりを矯正しずらくなります。適度な頃合いをみて曲がりを直すようにします。なお、若い竹は矯正が簡単で、少しの力でグニャッと曲がってしまったりします。このような竹は若すぎて良い竹ではありません。適度な堅さを持つ竹は、やはり生育して3〜5年くらいの竹なのかなと感じております。

  <2008/02/13> 追記
最近になっての考えであるが、油抜きの一番良い方法は、「とってきた竹をすぐに煮てしまう方法であろう」と思うようになってきた。この方が含まれているいろいろな不要物がしっかり除けると思われるし、何よりも竹の表面がきれいなものが得られそうだからである。油抜きを現在の方法でやっていると、採取後の自然乾燥の間に内部から汚れが浮き出てしまい染みを作ることも多い。このようなことから、きれいな笛であることを大切にするプロの方たちは、青竹をすぐに煮てしまう方法を採用しているのではないかと思われる。
また、懸念していた乾燥後の堅さについても、現在の方法と遜色ないと思われる。煮てしまっても乾燥させれば十分堅くなると思われる。ただし、このようにして油抜きした竹でも、火で焼きしめる作業は行った方が良いと考えている。

 <2011/01/22>  採取した後すぐに煮てしまう油抜きの実施
竹を煮る 2011年1月2日に採った竹は、石油缶(一斗缶)を利用して油抜きをしました。石油缶(一斗缶)は竹の長さに対して深さが足りないので、下半分が煮えたら竹の上下を逆にして反対側も煮るようにしました。煮えたぎるようにするにはかなりの時間と燃料代がかかります。今回は、容器に対して竹の量が多かったので、水を入れ替えてもう一度煮てみましたが、合計で5時間くらいは煮ていたと思います。煮ていると表面の汚れや竹の成分が熱湯に溶け出て湯がかなり汚れます。また、青くさい臭いがかなりしてきます。この臭いは、今までの方法の油抜き(自然乾燥後の加熱での油抜き)と同様な臭いです。
竹を干す 始めの予想では、煮た方が染みのないきれいな竹になると思っていましたが、この方法でも完璧にきれいになるわけではないことが分かりました。煮た竹の表面の色は出がらしのお茶のような淡い緑黄色になります。煮た後、すぐに天日干しによって乾燥させますが、今までの方法(青竹をそのまま乾燥させる)よりもずっと短期間で乾燥します。関東地方ではこの時期、好天の乾燥した日が続くので5日間も干せば十分乾燥します。竹の色はさらに薄くなり、染みも気にならない程度になります。その後、火入れによって曲がりの矯正をします。竹の青みは更に抜け、強度も増します。

 (Q)歌口はどのように作ればよいのか。
 (A)歌口の開け方に関しては、真下に垂直に開けた方がよい。以前、歌口の角度は「リコーダーの歌口のリップのように鋭角になっているほうが息が上下にきれいに分かれてよいのかも知れない」と考えたことがある。そして実際に歌口を少し鋭角に作ってみたことがあったが結果はあまりよくなかった。竹の太さによっても違うが、一般的には歌口の断面が垂直の方が音がよく出るようである。篠笛の音を出す原理は、ビンを吹いて音を出すのに似ているので、ビンの口のような断面の方が音が安定して出るのだろう。
また、歌口部分の垂直な断面の厚みはある程度あったほうがよい。これも以前失敗したことであるが、音をよく響かせるには管が薄い方がエネルギー的な無駄が小さくなると思い、竹の内側・外側両方を削って管厚をかなり薄くした。そうしたら、音をつくる部分の歌口まで薄くなってしまい、結果的に音が出にくくなってしまった。恐らく歌口の部分の厚さと管全体の厚さは二律背反の関係にあるのだろう。そのため、フルート等では歌口の部分だけ金属をさらに貼り付けて厚みを持たしているのだと考える。
 なお、歌口の大きさはその形状にもよるが内径の80%弱くらい(竹の太さ(調子)によって変わるが、おおよそ横11〜15mm、縦9〜12mm程度)であろう。【古典調6孔5本調子に限定するなら横12〜13mm前後、縦9〜11mm前後】
 また、篠笛とフルートの歌口のノウハウは近いものがあると考えている。形状(楕円形の縦横比)やアンダーカット・ショルダーカット等もフルートの歌口の手法を多少真似してもよさそうである。
 歌口の話とは少し違うが、あまり手間をかけすぎた笛はかえって音がつまらなくなる恐れがある。つまり、表面も塗装した塗り笛を作るとき、管の内側や外側を何回も塗りと研ぎを繰り返してツルツルに仕上がると、かえって音が単調になり篠笛本来の味のある音色が出なくなる(気がしている)。篠竹の表皮は堅さや組織の異なる何層かで出来ており、非常に細い筋も縦に走っている。この辺も音色づくりに何らかの貢献をしているようである。


篠竹採りと篠笛の製作過程(古典調7孔4本調子)

※(’05/07/28初出 下名栗獅子舞笛の製作過程)
説  明
写  真
篠竹林
 篠竹(女竹)は管が細長い竹で、釣り竿や笛に使われます。晩秋から冬場にかけて切り出して使いますが、笛に用いるには、節間の長さが最低でも40数cmは必要です。
1年目の若い竹は乾燥させるとしなびてしまい笛にできません。枝の付き方や表面のようすから判断して3年以上はたっていそうな竹を切り出します。
立ち枯れしたものからも良い笛を作ることができ、良い竹かどうかはたたいてみたときの音である程度分かります。病気等で若くして立ち枯れしてしまったものは、色が黄色味をおびており重さも軽く、ノコギリで楽に切れますが、これは使い物になりません。反対に、色が白っぽくて堅い竹は重みもあり、良い笛になることが多いと思われます。
篠竹林
竹の切り出し
 自宅から1kmほどのところに、花が咲き枯れてしまった篠竹林があります。(上の写真の篠竹林とは違うところです。)持ち主の人がいくら採ってもよいと言ってくれたのですが、とりあえず20本くらいもらってきました。下側は太く短い節間で、上の方も細く短いため、笛にできるのは目の高さあたりの上下4節分くらいです。肩に担いで家まで運んでくるため、運びやすいように束ねて持ってきました。
採ってきた竹は一節ごとにカットし、両端の節をドリルやナイフで穴を開けます。その後、熱湯で煮て竹に含まれている有機物を取り除いてから天日干しをします。
採ってきた篠竹 カットした青い篠竹の自然乾燥
竹の矯正と油抜き
 冬場の乾燥した天気で一週間程度(始めに煮ない方法ではもっと長い期間)干したら、竹の矯正(始めに煮ない場合は油抜きも兼ねる)を行います。 あらかじめ曲がりのようすをチェックし、力を加える部分に鉛筆等で印をつけておきます。
写真は平らな机に篠竹を置き、曲がり具合をチェックしているところです。下にすき間ができているので曲がっていることが分かります。
真ん中の写真はガス火で油抜きしているところです。理想は炭火なのですが、準備できないのでガス火で行っています。焦げないように注意しながら火を通すと、切り口から蒸気や汁が出てきます。青臭い臭いもかなりします。このときに、チェックしておいた部分を目安にして竹の曲がりも直すようにします。床に桐の端材を置きこの上に竹の一端をのせ、曲がっているところを足で踏みつけて矯正します。曲がっている中心部の両端から少しずつ両足で力を加え、徐々に中心部に向かって力を加えていき真っ直ぐに直します。(チェックしたところだけに力を加えると、この部分だけが強く曲がってしまいます。)
矯正しすぎて反対側に曲がりすぎた場合は、もう一度加熱してすぐに柔らかい板(コルクカーペット等)の上に移し、上から別の板をあてがい竹が冷めるまでコロコロと転がします。上下動なくスムーズにコロコロ転がるようならば良い笛材になるといえます。(これは、熱いうちにやらねばなりません。また、すべてがこの方法で円形で真っ直ぐな竹にできるわけではありません。すぐに元の状態に戻ってしまいそうな竹は、冷えるまで力を加えたまま冷まします。)
 油抜きをすると、竹の表面がほんの少し透き通ったような感じになり(実際に透き通るわけではありません)、堅く引き締まるように感じます。(少しオーバーな表現かも知れませんが叩いてみると音が変わります。加熱前の竹はコンコンという感じですが、加熱後にはカンカンというような高い音になります。)
この後、乾燥した風通しの良いところで、保存しておきます。
鉛筆で印をつけます 油抜き 板をあてがって転がします
竹のストックと選び出し
 現在300本くらいストックがありますが、たくさんあるようでも作りたい種類の竹を選び出そうとすると、該当する竹はかなり少なくなります。
 今回、下名栗の獅子舞笛(7孔4本調子)を作るので、中央部の太さが20.5mm程度で長さの長い竹(約49cm以上)を選びました。49cm以上の竹は数本しかありません。なお、写真右側の笛はすでに自作した下名栗獅子舞用の笛です。今回は同じ笛をもう一管作り、その製作過程を写真に残しておこうと思います。(ここに掲載の写真等)
竹のストックと選び出し
管尻・管頭を決める
 モデルとなる笛(モデルがなければ数値データ)と選び出した竹を比較して、管尻になる位置、管頭となる位置の見当をつけます。管尻となる位置、管頭となる位置が決まったら、その場所をノコギリできれいに切ります。切り口がささくれそうな場合は、マスキングテープで巻いて一緒に切り落とせばよいでしょう。よく切れるノコギリがあるとベストです。切り口が斜めになってしまった場合には、ヤスリ等で真っ直ぐに直します。
 今回の竹は作ろうとする笛に対してぎりぎりの長さでした。一般的には作ろうとする笛に対して十分長い竹の方が余裕をもって位置を決めることができます。
管尻側のカット
管内の清掃
 管内を紙ヤスリを巻いた棒(棒に両面テープで紙ヤスリを貼り付けたもの)できれいにします。管の内側は柔らかい組織なので、この部分を落とした方がよく鳴る笛になると思われます。できるだけきれいな円形(真円形)になるようにします。
(※ドレミ音階の笛を作るには試し吹きをしながら作る関係で、管内の清掃はここで行うべきですが、古典調の笛(今回の笛)は穴開けの後に清掃した方がよいと思います。実際には後で内部に漆を塗るのであまり大きな影響はないが、穴開けの時に内部にキズがついたりハンダゴテが誤って管の底に触れてしまう可能性もあり、清掃が後の方が仕上がりがきれいになる。)
管内の掃除
穴位置の決定
 穴位置に鉛筆やサインペンで印をつけます。見本の笛と同等な竹が準備できたときや、穴位置や大きさの数値データが分かっている場合には、そのとおりの位置に印をつけます。当然のことですが、すべての穴位置が一直線上になるように注意して印をつけます。
 このあと各位置にドリルで穴を開けます。
穴位置とドリル
補足 穴開け側とその注意点
 右の写真のように、乾燥させると芽(数年後に枝になる)のある側にヒビが入る竹がよくあります。ここは割れやすいところで、歌口や指穴を開ける側は、この位置(芽の側)を避けるべきです。私は180度反対側に穴開けをしますが、市販の笛には90度や60度ぐらいのものもあり、音の鳴りを含めてもう少し検討が必要です。なお、竹は節ごとに枝のついている側が交互になっており、断面の形もこの方向にやや長い楕円形になっています。
 下の竹は右端から3cmまで少しヒビが入っていますが、この程度なら籐巻きをするようにすれば問題ないでしょう。現在ヒビのない管尻側や中央部も将来の用心のため籐巻きをしておいた方がよさそうな竹です。
 歌口や指孔の形や形状については、管内の形状とともにいくつかのノウハウがあるようです。まだ、よく分からないのですが、同じエアリード楽器のフルート等と共通するものがあるのではないかと思っています。

(05/09/04追加写真説明)右の写真は8月に製作した古典調6孔5本調子(高水山獅子舞笛)です。上と下では意識して歌口の形を変えて作ってみました。上は四角に近い長円形、下はほぼ円形です。歌口の形が音におよぼす影響はフルートの歌口のノウハウと近いものがあると考えています。なお、歌口の大きさはその形状にもよりますが、内径の80%弱ぐらいが適当なようです。(初めての製作から30本目くらいまでは、適度な大きさを見つけるために試し吹きをしながら広げていましたが、現在はだいたいの見当がつくようになりました。)
(05/12/10追加)歌口の端から反射壁までの長さ(ふところ)は、作った時期により少しずつ変化しています。初期の頃は5mm程度が多かったが、2005年は2mm程度が多く、中には1mmの唄用(ドレミ音階)のものも作りました。しかし、冬場に長く吹いていると、音がかなり変化していくものがあり、もしかしたら「ふところ」の長さが短すぎるのかも知れないと思い始めました。冬場は特に露が溜まりやすく、反射壁についた露や歌口付近に溜まった露により1mm程度では影響が出やすいのかも知れないと考え、現在では3mm程度までふところを長くしています。(自然素材の竹を使った場合、同一条件の竹を用意することが難しいため、原因が何であるかを特定するのは困難です。あくまで個人的な推測であり、今後考えが変わるかも知れません。)
竹の割れ
歌口の形状の違い
穴開け
 ドリル等で小さい穴を開けた後は、本来は試し吹きをして周波数を確かめながら切り出しナイフで穴を大きくしていくのですが、見本の笛と同等な竹が準備できた場合はハンダゴテで穴開けをしても支障がないと思っています。ハンダゴテを使うと短時間できれいな穴が開けられます。最近はこの方法を使うことが多くなっています。
穴開け
歌口および指孔の整形
 切り出しナイフによって、歌口と指孔の形を整えます。見本の笛がある場合や指孔等のデータが分かっている場合は、そのような大きさ・形になるように切り出しナイフで穴を大きくします。円形のヤスリで形を整えてもよいと思います。 (ドレミ音階の笛を作るときにはチューナーを使い、試し吹きをして周波数を確かめながら作りますが、古典調の場合は使わなくてもよさそうだと思っています。)
 簡単に書いていますが、実はこの工程が一番神経を使い、多くのノウハウがあるところです。笛の性能は歌口・指孔の大きさや形状によって大きく左右されます。

 ※(08/08/11補足説明)(写真下)
 一つの穴開けだけに集中していると全体としてのバランスが崩れてしまうこともあります。そのようにならないよう、各孔が一直線上にのっているかどうかも適時調べます。写真はヒモを使って各孔の中心線がずれていないかどうか調べているところです。また、全体的な穴の大きさのバランスも適宜調べながら作製します。
歌口と指孔の整形  
各孔が一直線上にあるかヒモで調べる
反射壁をつくる
 歌口側にコルクやバルサ材で栓をします。ホームセンター等で径が15mmで長さが900mmのバルサ材が売っていますのでそれを使っています。バルサ材を8cm程度の長さに切断します。これを板で床に押しつけながら転がし、管頭側に入るくらいまで細くします。反射壁になる方のバルサ材の断面を紙ヤスリで平らにしてからアロンアルファを塗ります。乾いてカチカチに堅くなったら、バルサ材と管内部の両方にボンドを塗り、歌口の端から3mm程度の位置まで押し込みます。反射壁から管内部にボンドが少しはみ出ますので、これを先を曲げた針金等(歯間ブラシがあれば一番使いやすいと思います)で歌口からすくい取ります。

 ※追記  軽くて柔らかいバルサ材ですが、その表面に木工接着剤アロンアルファを塗ることにより非常に堅い材質になります。多孔質で接着剤がよく染みこみますがアロンアルファが硬化した後は普通の木材よりもずっと堅く丈夫になります。
反射壁をつくる
管内部の塗装
 管の内部を塗装します。フィルムケースに赤色のカシュー漆と薄め液を適量入れて混ぜ合わせます。スポイトで各孔にこの液をたらし、布を巻きつけた細い棒で管内をカシュー漆で塗装します。
歌口や指孔の断面もカシュー漆で塗装します。この部分の塗装については始めのうちは極細の筆で塗っていましたが、最近はツマヨウジ(※)を筆代わりにしています。筆を使うと作業が終わるつど薄め液で塗料を洗い落としたりで手間がかかりましたが、ツマヨウジなら使い捨てにできるし、筆とくらべても遜色ありません。Webを拝見したところ、塩ビ水道管横笛の「かのう」さんもツマヨウジを使っていらっしゃるようです。※現在はツマヨウジよりも「焼き鳥等の串」を使っています。軸が長く丈夫なのでより使いやすく感じます。

 中塗りは3〜4回はすべきだと考えますが、1回目と2回目の間はかなり空ける必要があります。1回目の塗装では竹の地肌まで塗料が浸透するため、乾燥にも時間がかかります。カシュー漆の臭いがあまり気にならなくなるまで待った方がよいと思います。
管内部の塗装
管頭の処理
 管頭側にはみ出ている余分なバルサ材を竹ごとノコギリで切り落とします。この後、ヤスリで管頭側の形を整えます。私の場合は、笛の両端が心持ち丸みを持っている方が好きなので両端を少し絞るようにすることがよくあります。バルサ材の断面はアロンアルファを塗るとすきまがふさがって堅くなるので、その後で漆(カシュー漆)を塗ります。これで笛としてはとりあえず完成ということになります。(ただし、実際には音をよくするために内部の塗装をあと数回します。また、割れを防ぐためや装飾として籐巻きも行うことがあります。)
注意:作製の手順は臨機応変に変えています。管内部の塗装は笛ができあがってからの方が良かったのかも知れません。
管頭処理
管表面の塗装
今回の竹は表面がきれいではなかったので漆仕上げにすることにしました。漆(カシュー漆)が塗れるよう、表皮を紙ヤスリできれいに削り取ります。できるだけ表面が平滑面になるようにします。
次に、カシュー漆と薄め液を適量加えてよく混ぜたもので塗装していきます。カシュー漆の原液そのままでは、笛につかないこともあります。(竹表面がツルツルだったりすると、漆が膜状にはがれることがあります。)一回目の塗装は地肌が透けるくらい薄く塗る方がよいでしょう。
今回は両端に籐を巻く予定ですので、この部分は塗っても意味がないので塗りませんでした。この後、自作の立て掛け台で2日間ほど乾燥させます。(実際には塗らないで残しておいた白い部分も、2回目以降の塗装で塗ってしまいました。)
管表面の塗装
籐巻きとその準備
 外側と内側を何度か塗装した後、両端に籐を巻きます。(巻かなければならないものではありません。)
籐を巻くには、素竹の場合も塗装の場合も表面を削っておく必要があります。削る位置の目印にマスキングテープを巻き、切り出しナイフで切れ込みを入れた後、ナイフで塗装や表皮(素竹の場合)を削り取ります。籐は10分ほどぬるま湯につけたものを使い、巻き始めの部分を瞬間接着剤で貼り付けます。その後、籐を巻く部分にボンドを塗って籐を巻きます。巻き終わりの部分も巻き始めと同じように瞬間接着剤で固定します。
 ※表皮や塗装を削り取った部分に籐がピッタリと収まることはまれで、わずかにすき間ができてしまいます。この部分は再度、塗装することになりますがきれいにできません。プロの制作者は別の方法でやっているのでしょう。

 ※(05/09/04追加)(写真下)いったん塗った塗装をわざわざはがしてから籐巻きするのもどうなのかと思い、別の方法でも試してみました。最初に竹表面を削ったらすぐに籐巻きをしてしまい、次に籐を巻いた部分をマスキングテープで覆い色漆(黒漆)で塗装する方法です。
 右の写真は、この方法で3回程度の塗装を済ませた後に、いったんテープをはがしてはみ出た塗料のバリをとってから、新たに仕上げ塗装のためにテープを巻いたものです。この後、もう一度研ぎをしてから仕上げの漆(カシュー漆)を塗ります。この方法だと色漆(黒漆)で仕上げ塗りをすることができます。また、わりときれいにできる上に工程も減らせるのでよい方法だと思います。ただし、テープに少しでもすき間があると籐の溝を通して漆がにじんでくるのでテープの巻きは丁寧に行う必要があります。(マスキングテープの種類(メーカー)によって粘着力の差が多少あり、ピッタリ貼り付く物とそうでない物があります。)
籐巻きの準備
マスキングテープを巻いての塗り
管表面の研ぎ出し
籐は、ニスや透明漆をうすくかけておいた方が雨天時の使用でも安心です。また、巻きがとれにくくもなります。
 きれいに仕上げるために黒色の部分も紙ヤスリで平滑にします。研ぎをするといったん笛の光沢がなくなります。
上の道具は、平らな棒きれに目の細かい紙ヤスリを貼り付けたもので、最初にこれで表面を平らにします。この後、耐水性の細かい紙ヤスリで水研ぎし、表面の凹凸をできるだけなくします。
笛の研ぎ出し
仕上げの塗装と完成した笛
 仕上げの透明漆を塗ります。薄い均一の塗膜になるよう全体を塗装して2日間ほど乾燥させます。あまりホコリがたたないような部屋で作業するのが良いでしょう。
 中央が今回の笛(黒塗)、左が最初に製作したもの(素竹)、右端が最後に作った笛(透明塗)
 すべて一長一短があり満足できる笛はありません。音色はともかくとして一番よく鳴るのは右端の笛です。
 30℃における周波数(呂音)… 筒音385Hz、一468Hz、二506Hz、三553Hz、四601Hz、五667Hz、六749Hz、七840Hz
 下名栗の笛は全長が47〜48cmもあります。三匹獅子舞の笛としては、かなり大きいものと思われます。
完成した笛

  笛作りをきちんと学んだわけではないので自己流の作り方だと思います。参考程度であることをご承知おき下さい。(中島)
  笛作りの素晴らしいサイトを紹介します。ここに記載されている詳しい物理・音響理論や情報は、古典調の篠笛作りにとっても、非常に有益です。 LINK ピタゴラス律横笛 たぬ笛のページ  【新しいウインドウで開きます】
  塩ビ水道管の音響学、塩ビ水道管横笛の作成に記載されている詳しいデータ等、大変素晴らしいものです。
LINK 中根東八幡社神楽  【新しいウインドウで開きます】


青梅市野上 春日神社獅子舞伝承者 細谷様製作の笛

2006/10/13 初出管尻側の一穴を塞ぎ6孔笛にした笛

 2006年10月8日に青梅市野上の春日神社の獅子舞を見学しました。獅子舞の芸態にも興味深いものがありましたが、笛吹きの方々が持っておられる笛に大変興味を持ちました。市販のものではまず見ることができないほど頭(かしら)が長い笛を使っておられる方や、7孔笛を6孔笛にしたものを使っておられる方や、深い色合いの見事な笛を使っておられる方がいました。
 右の写真は7孔の囃子笛を6孔の獅子舞笛にしたもので、このような笛を使っておられる方を何名かお見かけしました。一番管尻側の指穴を塞いで6孔笛として使うことについては、以前「獅子舞の変容」のページでも考察したように、かつて6孔の笛がほとんど市販されていなかったためだろうと思われます。野上の獅子舞でもかつての高水山と同じように、7孔笛を6孔笛にして使うことが一部であったことが分かります。
 話をもとに戻しますが、野上では特別に作ってもらった笛を使っておられる方が多いようでした。頭(かしら)の非常に長い笛をお持ちの方に聞いたところ、野上の獅子舞用に特別に作ってもらったとのことで、このような笛をお持ちの方が他にも数名いらっしゃいました。 細谷様製作の笛 7孔囃子笛
 その中で特に興味を持ったのは、紫がかった美しい褐色の光沢をもった笛でした。さっそく持ち主の方に、どこの笛(製作者・メーカー)のものかお聞きしたところ、何と、ご自身で製作したものだということでした。その出来に大いに感心していたところ、作者である細谷様はお住まいが神社のすぐ近くということで、自作の笛を何管か持ってきて下さることになりました。祭礼が終了してから社務所にてじっくり拝見させていただきましたが、私の作っているものよりもはるかに素晴らしいできばえのもので、これほど丁寧に作られた笛はめったにないと感心しました。
 当日は残念ながら専用カメラを持っておらず、ビデオカメラのおまけ機能のカメラで撮影せざるをえなかったため、これらの笛のもつ気品や質感がうまくあらわれず残念です。竹も燻し竹を使ったものが多く、籐も丁寧に染色したものを巻いているものもあり、気品と美しさを持つ逸品ばかりでした。すべてに銘が焼き印されております。(銘はカメラに撮ったからと安心していたところ、解像度の低いカメラであったため自宅で銘が確認できませんでした。残念です。)
 細谷様は、獅子舞(6孔)はもちろんお囃子(7孔)も吹かれるとのことです。なお、製作をはじめた初期の頃には、笛の専門店である邦声堂(青梅市千ヶ瀬)の高橋様にいろいろとご教示いただいたとお聞きしました。一管仕上げるのに三ヶ月以上かけているとのことで、頭(かしら)の黒檀も貼り付けでなく管に埋め込んでいるとのことです。竹材は群馬県の沼田市より購入しているそうです。

埼玉県飯能市 小瀬戸浅間神社の獅子舞笛

2008/08/12 初出

小瀬戸の獅子舞笛 作成中小瀬戸の獅子舞笛 完成品
 左側の写真は製作途中のもので、右側は完成したものです。古典調6孔の全長402mmで三匹獅子舞の中では短めの笛だと思います。祭礼で実際に使って頂ければ(小瀬戸の伝統的な笛とほぼ同じ音程になっていれば)、うれしく思います。

自作の小瀬戸獅子舞笛の調整

2008/10/20 初出

自作の小瀬戸の獅子舞笛は小瀬戸の伝統的な笛よりも若干音程が低めであることが分かりました。10月12日の祭礼終了後に、小瀬戸の笛の名手であり指導者でもある杉山様が吹き比べてくれましたが、確かにどの指押さえの時も音が少し低めでした。夏に笛を作ったときには、教えて頂いた笛のデータ(笛の太さ、長さ、指孔の位置、大きさ等)通りに作ったつもりでしたが、やはり実物を前にしないと同等な笛を作ることは難しいものです。(実物とは穴の大きさや内径が少しずつ違ったようです)
幸いにも今回、小瀬戸の笛(データを教えて頂いた笛とは別の笛です)を一管お借りすることができたので、吹き比べながらできるだけ近い音程になるよう笛を調整してみようと思います。 (※笛は音を低く作り直すことはほぼ不可能ですが、音を少しだけ高くなるようにすることはできなくはありません。我流の方法ですが、調整の様子を後日書きたいと思います。)
 10月12日に小瀬戸の獅子舞を見学しましたが、私が今年見た獅子舞の中では一番だったと思います。笛もよく揃っていたし、舞いも歌も解説もとても良いものでした。特に関心したのは、獅子舞の活性化やより良いものにする工夫が随所に見られ、子どもたちの取り込みにとても熱心だったことです。小瀬戸の笛 練習用譜面
 写真は、西洋音階に慣れた子どもたちにも笛が早く吹けるように、笛(曲)を五線譜に採譜したものだそうです。理解を速めるために指押さえの図も併記してあります。小瀬戸では獅子に子どもたちが出演するようになり(子ども獅子)、笛方にも2名の女性(大学生)が入った上にこれからは子どもたちの演奏も期待できそうです。

( ※右下のただし書き: この楽譜は昭和37年〜平成17年の例大祭の録音を基に所有のピアノ・パソコンで五線紙に仮に移してみたもので実際に祭りで演奏するものとは隔たりがあります。小瀬戸浅間神社の獅子舞の笛練習用として作成いたしました。正調の文献はありません、代々 口伝となっておりますのでご理解の程ご容赦願います。杉山 久)

さらに、笛方の配置にも工夫がなされていることに感心しました。写真は演目ごとの笛方の配置を図にしたものだそうですが、進行役(赤い字)も決めているとのことです。コーラスでも人の配置のしかたで集団の力が左右されますが、笛でも同じだと思います。また、笛は曲の変わり目が難しいと想像するのですが、このときの出だしがうまく行くように進行役も演目ごとに決められているようです。小瀬戸浅間神社の獅子舞には、他にも随所に感心するところがありました。機会を見て紹介したいと思います。 小瀬戸の笛方 配置図

笛の調整の様子

2008/11/10 初出

自作の小瀬戸の笛は、すべての指押さえで音が低めであることが分かりました。そこで、完成した小瀬戸の笛を今回お借りした見本の笛と吹き比べながら音程を調整してみることにしました。しかし、通常の方法より少し難しさがあります。
 実は、私が作った笛は、今回お借りした笛を基にしたものではなく、小瀬戸に古くから伝わる漆塗りの笛(非常に大切な笛です)のデータを基にしたものでした。したがって、今回の笛と竹の太さや穴位置・穴の大きさが少し違うので、歌口や指孔をそのまま大きくするだけでは、今回の笛と同等な音程の笛にはなりません。以下の基本的知識をふまえながら調整する必要があります。

上は元の笛、下は調整後の笛 笛の音を高くする基本的知識
 1.歌口と指孔までの長さが短かいと音が高くなる。
 2.指孔が大きいと音が高くなる。
 3.内径が細いほうが音が高くなる。
 4.歌口が大きい方が音が高くなる(場合が多い)。

調整の手順
1.まず、歌口を竹の太さとのバランスを考えながら少し大きくした。横方向に対しては指孔側に大きくした。歌口から指孔までが短い方が音が高くなるので、指孔側に広げるのがベストである。もっとも、反射壁側はふところが3mm程度の深さしかないため、管頭側に広げることはできない。
2.尺八運指チューナーを使って、調整している笛と見本の笛の筒音の周波数を比較する。筒音の音が同じになるよう管尻側を短くする。少しの高さの違いはヤスリで調整し、だいぶ違う場合は1mm単位でノコギリで管尻側を切り落として調整した。
3.管尻側の指孔から順番に音をチューナーで確認しながら指孔を大きくした。音を高くなるよう調整したいので歌口側に広げる場合が多かった。
4.すべての指孔の位置と大きさを調整した後、もう一度全体の音を確認し、微調整した。
5.塗装が剥がれた部分を再度塗装し直した。

上は太めの竹の場合、下は見本の笛と同等の細めの竹で作ったもの (追記)調整した笛以外に、今回の見本の笛とほぼ同等の太さの竹でもう一管小瀬戸の笛を作成してみました。写真の上は調整した笛、下は今回製作した笛(管の中塗りはこれからする予定)です。このように、音程がほぼ同じであっても、竹の太さの違いによって穴位置や大きさが少し変わります。

削りすぎてしまった歌口の修正

2012/08/10 初出

歌口形状の良し悪し  音が良く出る歌口の形状   歌口は図に示すように断面が垂直になるように作った方が音がしっかり出ます。しかし、現在制作中の笛の中に、歌口の内側を広げすぎてしまったものが一管あります。他の部分は満足できるのにここだけが不満で廃棄してしまうのも惜しいものです。
今回は、削りすぎてしまった歌口内部の修正を試みました。

漆と竹粉末による歌口修正 修正方法   一度削ってしまったものを元に戻すのは大変です。考えられる方法としてはパテのようなもので盛りつけるか漆の重ね塗りで厚みを増やす方法が考えられます。しかし、パテではすぐにとれてしまう可能性があり、漆の重ね塗りにしても、扱いの難しい塗りや乾燥を塗膜が厚くなるまで数十回も繰り返すのは大変です。
今回は、漆を接着剤として「竹粉末と漆を練ったもの」で盛りつけようと思います。
まず、別の篠竹を目の細かい紙やすりでこすり竹の粉末を作り、これを漆とよく練り合わせます。そしてこれを削りすぎてしまった部分に塗ります。厚く塗ると乾燥しないので、薄く塗るようにします。また、塗る範囲も横が1mm縦が0.5mm程度のわずかな部分だったのでつまようじで塗りました。1週間ほど乾燥させてまだ厚みが足りないようだったので、面倒でしたが同じ作業をもう一度行いました。漆と竹粉を練ったものの作り置きはできません。
漆が乾いたところで、歌口の断面を切り出しナイフや紙やすりで希望の形状に整えます。盛りつけた漆の厚さは0.4mm以内だと思います。

段ボール箱による漆の乾燥 漆室  漆を乾燥させるには適度な温度と湿り気が必要です。そこで、漆を乾燥させる室を段ボール箱で作って、そこで乾燥させます。 段ボール箱の底にビニール袋等を貼り付け、水分が底に漏れないようにします。次に湿らせた布を敷きます。その上にスノコ状に板などを置き、この上で笛を乾燥させます。
 私が使っている漆は、温度が25℃〜29℃くらい、湿度が70%〜85%くらいが乾燥に適しています。(販売している漆の種類によって温度・湿度等の乾燥条件が少しずつ違います。昼間の気温が32℃以上にもなる真夏では一ヶ月たっても漆が乾かなかった経験があります。温度・湿度の管理が大切です。)
 なお、漆を塗る時には真夏であっても肌の露出を避け、使い捨てのビニール手袋等をして作業します。

半地下にある車庫 真夏での漆室の設置場所   家人の漆かぶれを防ぐため、さらに真夏でも最適な温度を得るために半地下状態にあるガレージで漆を乾燥させます。 ガレージの正面は道路に面していますが、残りの面はコンクリの外側が土なので、外気温が32℃以上の盛夏でもシャッターを閉めれば26℃程度を保ちます。昼夜の温度変化もわずかで、真夏での漆の乾燥場所として最適です。



管頭と反射壁の間に中空をもつ笛の製作

2013/12/01 初出

管頭側に中空をもつ笛 管頭を塞ぐ栓と作成中の笛 今回完成した笛

今まで、図の上側に示すように管頭側に隙間が無い笛を作っていました。しかし、今回は下側の図に示すような構造の笛を作ってみることにしました。作成した理由ですが、「中空部分がある方が音の響きがよくなる可能性があるのではないか」と考えたからです。一般の笛はコルク栓で反射壁や管頭側の詰め物にしていると思われるので、今回の笛は一般の笛と近い構造だと思われます。
 一管について栓を2つ作ることになり、これらの接着まで考えると今までより少しだけ手間がかかることになります。 中央の写真は管頭を塞ぐ栓と制作中の笛です。反射壁になる短い栓はすでに中に固定しており、管内の塗装も数回済ませています。なお、栓の断面は紙ヤスリ等できれいな平面にして、なおかつ木工用アロンアルファで硬化させたものを使っています。バルサ材を切断しただけのものでは断面が多孔質で柔らかく、音を吸収してしまうと思われるからです。
 右側の写真が今回完成した笛です。割れ防止と装飾をかねて、今までよりも籐巻きの量を少し増やしてみました。
 問題の吹き心地の結果ですが、残念ながら今までのものと有意な差は見つけられません。音色や性能については、歌口や指孔の形、竹の形状や材質の方が大きな影響を与えているようです。

篠竹を煮ることの利点と竹の収縮

2014/06/14 初出

笛を作りはじめてからの十数年間の中で、篠竹採取後の処置が少しずつ変わってきた。現在は竹採取直後に節ごとに切断し、すぐに煮てしまう方法を採用している。第一の理由は油抜きがしっかりできるからである。お湯を数回換えて煮込むことにより、竹に含まれる水溶性の有機物を十分取り除くことができる。
 第二の理由は竹の曲がりを矯正するのにとても都合が良いからである。煮込んだ竹は全体が一様に柔らかくなっており、小さい力でも容易に曲がりを直すことができる。火入れによる矯正よりも簡単に真っ直ぐにすることができる。
 煮た竹の場合は油抜きが済んでいるので火入れを行う必要は無いとも考えられるが、私の場合は乾燥後に火入れも行っている。三匹獅子舞の笛は張りのある甲音で主に奏するので、引き締まった竹でつくった方が音がよく出るのではないかと考えるからである。

竹の収縮

 竹は乾燥すると収縮するので、採取時は目的の径のものより太めの篠竹を採取する必要がある。今回、竹がどのくらい収縮するか測定してみた。(計測日 2014年1月4日〜2月20日)

 乾燥前の外径(mm)  乾燥後の外径(mm)  乾燥後/乾燥前 
22.2 20.9 0.941
21.4 20.1 0.939
20.2 18.8 0.931
19.0 17.9 0.942

平均して元の太さと比べ約94%程度に収縮することが分かった。

指孔まわりの焼き締めと管全体の火入れ

2016/02/02 初出

ルーターを使う前ルーター使用後電気コンロによる火入れ (1)きれいな穴開けをする方法
 歌口や指孔を彫るとき、良く切れる切り出しナイフを使っても切り口がささくれることがある。歌口や指孔を彫る前に焼きごてで穴を適度に焼き締めておくようにするとささくれが少なくなる。さらに、ルーターを使うことによってきれいな指孔を作ることができる。
 左側の写真は穴開けの最初期のもので、前もって焼きごて(ハンダゴテを改造したもの)で穴を焼き締めているが、それでも切り出しナイフだけできれいな穴にすることは難しい。中央の写真はルーターで穴を広げているものであり、ここまで来ると穴開け作業も終盤に近い。穴が汚いと見た目だけではなく笛としての性能も劣り良いものはできない。歌口と指孔作りが笛作りのもっとも重要なところである。
(2) 火入れの意味
 熱湯で煮る油抜きであっても、笛をつくるときに火入れをした方が獅子舞笛として良いものができるのではないかと考えている。高水山系統の獅子舞笛は、張りのある甲音で主として奏するので、火入れをして固く引き締まった竹材で作った方が音の面でも良いと思われるからである。実際、火入れをすると竹の弾力性と強度が増し、叩いてみたときの音もコンコンというような音からカンカンというような高く澄んだ音に変化する。当然、笛にしてからの音色も違う。
 火入れで使う火は炭火が一番良いと考えている。炭火による加熱の場合には赤外線による加熱も考えられ、これが出ずに替わりに水蒸気が発生してしまうガス火よりも良い結果をもたらすと考えたからである。このことを確かめようと今回はガス火を使わない方法で火入れを行ってみることにした。しかし、わざわざ木炭コンロや炭を購入するのも大変なので、写真に示すように家にあった電気コンロを使ってみた。試してみた竹材は、5年ほど前にすでに油抜きと火入れをしておいたものだったが、今回穴開け作業をしてみた結果、ささくれが割と目立ったので穴開けの途中で竹全体を再度焼き締めてみることにした。写真では分かりにくいが、熱くなるので笛の管内に長い丸棒を入れて、火傷をしないように棒の両端を持って加熱している。
 さて、電気コンロとガス火での比較であるが、実は焼き締め具合がそれほど変わるとは思えなかった。水蒸気発生の有無の影響はさほどでもなく、それよりは火力の違いの方が影響が大きいと思える。釣り竿や弓矢の製作には確かに炭火が必須であろうが、笛作りにおいては火力に注意し、回転させたり移動させたりしながら丁寧に加熱すれば、ガス火でも大きな問題はないと考える。なお、火入れは焦げができないように注意をはらって加熱する必要があるが、誤って焦げができてしまった場合は塗り笛にすれば無駄にならない。
(3) 使用用途に合わせた笛作り
 煮る方法によって油抜きした竹を再度火入れをする必要があるかどうかについては、実のところよく分からない。市販の笛でも、煮ただけで「火入れをしないで作ったもの」と「火入れをして作ったもの」の両方が流通している可能性がある。室内で演奏したり民謡などを吹く笛の場合には、火入れをしない方が味のある「しぶい音」も出て良いのではないかと考える。しかし、私が主に作っている獅子舞笛は野外で使用し、終日張りのある響きで演奏しなければならないため、ある程度焼き締めた竹で作った方が良いのではないかと考えている。楽に音が出て、笛吹き(笛方)が一日中吹いていても疲れづらい笛を作ることを理想としている。

2018年11月完成の笛

2018/11/07 初出

笛の全体写真 笛の管頭側写真 笛の管尻側写真

左側の笛  籐の巻き方は半重(天地巻と総巻の中間)   素竹
中央の笛 籐の巻き方は本重(総巻)   素竹
右側の笛 籐の巻き方は半重  表皮を剥き透明漆を薄くかけてあります。
※今回の籐は品質があまり良くなく、黒ずんだ部分が多々あります。

2023年9月完成の笛

2023/10/10 初出

2023年の笛

左側の5管は古典調5本調子(高水山獅子舞笛)  右端の1管は唄物8本調子


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