地域の伝統文化・伝統芸能を継承することの今日的意義 

(2003/10/10 初出)

(2008/12/28) 社会状況の変化によりここに記載した内容、特に就労に関する意識等が現状とあわなくなってきている。そして、これからも時代の変化の中で新たな課題が次々に生じてくる可能性がある。しかし、時代がどのように変化しても「人と人とのつながり」や「世代間交流」の大切さが失われることは決してないはずである。したがって、本ページも他のページと同様に初出の文のまま掲載しています。

「文化財として 地域共同体として」

 地域に伝えられる伝統文化・伝統芸能を継承して行くということは、かなりの努力と困難さを要すと思うが、貴重な文化財を次代に残すという面で重要である。そして、このことを通して地域に誇りと愛着をもたらし、地域共同体に果たす役割も大きいのではないかと思う。
 ここ数十年の歴史を振り返ってみると、高度経済成長期の社会情勢の変化でこの貴重な伝統文化や伝統行事が簡素化されてしまったり、場合によっては失われてしまったところも多いと聞く。これらの文化財は、地域の人達のみならず日本の貴重な財産であり、この宝物とも言うべき文化財が失われて行くことは非常に残念である。
 秩父・多摩地方に伝えられる多くの郷土芸能について言えば、山間部に伝えられているものが比較的多く、この伝承面で恵まれた地域だったからこそ数百年間も絶えることなく脈々と受け継がれてきたものだろうと思う。しかし、その好条件が高度経済成長期にあっては人口の減少という形になって表れてしまい、次代への継承に困難さを伴うようになってしまったところが多い。
 一方、人口が増えている町場についても、首都圏のベットタウン化という急速な人口増加に地域共同体のありようが追いついていかず、これもまた継承への難しさがあるとも聞く。 花笠の準備
 このような厳しい状況ではあるが、近年は明るい話も一部で聞かれるようになってきた。下名栗の獅子舞では、保存会の尽力で新住民の子どもたちを含めた積極的な後継者育成がはかられ、ササラ摺りを引退した少女達の笛方への参加もあり、以前より隆盛になってきているとのことである。これには、大人達が地域の文化や地域の誇りを再認識し、より前向きに伝承してきたこともプラスにはたらいたようです。あらたに他地区から来られた方たちも、これらの活動を通し急速に地域に根付き、地域共同体の新しい一員となって行くのではないでしょうか。
 私たちの果たすべき役割は家庭と職場だけにあるのではなく、地域住民としてもその役割や責任があると思います。家庭、職場、地域の3つがそれぞれうまく機能し、役割を分担しながらも相互に補い合うことが本来の社会のあり方ではないでしょうか。
 ほとんどの人が新住民という新興住宅地では、新たに求心力を持つ何かを作っていかなければならないわけだが、これは時間のかかる大変なことであろう。
そういう面では、すでに伝統文化や伝統行事をもつ土地に住む人は、地域の求心力がすでに存在しており、とても羨ましい土地でもある。僭越であることは重々承知しておりますが、この誇るべき地域に住む方々が日本の貴重な文化財の継承のために、これからも力を尽くして頂ければと願います。

 

「青少年の社会への適応と人間教育の場として」「世代間交流の大切さ」

 現在は、学生・生徒の社会への移行にかつて見られないほどの困難さがともなっていると聞くことがある。就労状況で見ると、高校生・大学生の就職自体も厳しいものがあるが、せっかく職についても職場になじめず離職してしまうものも多い。ある調査では、高校卒業者で3年以内に離職するものが5割もいるという。より自分に適性のある職種を求めての転職や自己実現を目指した積極的な離職は良いのだが、問題なのは会社になじめなかったり、人間関係がうまく結べず不適応をおこし、どこに行っても長続きしない場合である。場合によっては、仕事をすることの意義や大切さが見いだせず無業者となってしまったり、極端な場合には引きこもりになってしまうものも以前より増えているとのことである。
 また、これらの非社会的な事柄にとどまらず、未成年者の反社会的な行動も気になる。単独での反社会的な行動もあるが、より深刻なことはグループでたむろし喫煙したり深夜まで遊び回っている少年少女たちである。彼ら彼女らは同世代の同じような性向を持つものからなり、互いに悪影響をおよぼしあっているように思われる。 大丹波 三拍子の一場面
 これらの背景には、社会の変化とそれにともなう育てられ方や家庭教育の問題があるのだろうが、その中でも地域社会が機能しなくなってしまったことは見落とせない。つまり、本来は家庭や学校以外から学ぶべき事柄が、抜け落ちてしまっているのではないだろうか。今日では、子どもが成育して行く中で年代を異にする人達との出会いが極端に少なくなってしまった。現在、青少年がほとんどの生活時間を費やすのは学校や塾、そしてクラブ活動である。これらは一部の大人を除いては同年齢の集団である。学校卒業後の社会への不適応もここに大きな問題があると思われる。また、たとえ同年齢のつき合いであっても、メールや掲示板等での短い言葉の羅列や絵文字だけでは真の人間関係が深まらず、誤解を生むことも多いと考えられる。直に顔を合わせたり一緒に何かに取り組むことが、人と人との人間関係を深めたり絆を強めるものである。
 このような社会状況の中で私たちは何ができるであろうか。そのヒントの一つは、地域に住む子ども達を取り込んだ地域共同体のあり方にあるのではないだろうか。もし、地域に子どもや青少年を含めて共同で取り組むものがあるなら、それは大きな人間関係作り、人間教育の場となるのではないかと思う。
 特に、共通の目標のもとで取り組む地域の伝統行事・伝統芸能はかなりの大変さもあると思うが、それだけにやり遂げた充実感や喜びも大きいのではないだろうか。もっと大切なことは、たとえ数週間程度の練習を通じたふれ合いであっても、そのことがもたらす子どもたちへの影響は極めて大きいと考えられることである。地域で生活している以上、その時知り合った方々とはどこかで必ず顔を合わせるはずである。最初はたとえ挨拶をかわす程度であっても、後々大きな意味を持ってくるに違いない。そして、このような地域の伝統文化を伝える集団は、様々な職業や年齢層の人達からなる上に、青少年を立派に導ける方々のそろった集団でもあると思う。社会で活躍している人やいろいろな方面で努力をしてきた人達との出会いは、青少年にとって益するものも多いのではないだろうか。
 伝統文化の継承のみならず、これからの社会を担う青少年の人間教育の場としても期待を寄せたいと思います。

 地域で取り組む伝統行事・伝統文化の体現

(1)家族みんなで参加するしし舞
 「埼玉県民の日」記念作文コンクールで優秀賞を受賞した名栗小学校 岡部美月さんの作文、「家族みんなで参加する獅子舞」を紹介いたします。下名栗では、地域に伝わる郷土の伝統芸能・獅子舞にどのように取り組み、それがどんな意味をもつのかが、3年生の時から参加している岡部さんの目を通していきいきと描かれています。
LINK「家族みんなで参加する獅子舞」  【単独の文を表示します】

「県民の日」記念作文コンクール (平成15年12月)

小学校の部 優秀賞  名栗小学校6年 岡部美月

家族みんなで参加するしし舞

 お盆が終わり、秋が近づく八月二十四日は下名栗諏訪神社のお祭りです。
 お祭りの中心は「埼玉無形民ぞく文化財」に指定されているしし舞です。私は神社の近くに住んでいるので小学校三年生の時からササラとして参加しています。ササラは小中学生女子四人が太陽、月、ぼたんの花笠を頭に付けて竹の道具をすります。笛に合わせて狂う三匹のししと同じぐらい大切な役目です。ひいおじいさんもお祭りが大好きでしし舞をしていたそうです。お父さんは昔笛をしていて、今はお母さんが着付け係で、家族中で参加しています。家にはしし舞の巻物があり、お祭の日には座敷にかざります。
 しし舞は百六十年も前に青梅市の高水山から伝えられ、大勢の人々の努力で引き継がれてきました。楽しく見てもらうために広い場所をいっぱいに使って舞うように工夫したそうです。そして、昔からの技がしっかりと伝えられているので県の文化財にも指定されました。今でも、練習は熱心で、ししと笛は一年中、日を決めて行っています。ササラの練習は八月一日から始まります。
 今年の役は「めじしがくし」です。今までに、「さおがかり」、「お宮まいり」、「しらは」をしてきたので、笛の音は頭に入っています。 練習は芝ごとに分かれて指導者に教わりますが、おぼえるのも早くなりました。
 お祭りの日は二時間も立っているので、すごく足が痛くなりました。とちゅう、うちわであおいでくれる人や、水を飲ませてくれる人もいます。こんな時、かげで働く人が大勢いることに気がつきました。歌をうたうのは保存会の年ぱいの人です。八十才ぐらいのおじいさんもいます。見物の人は、わざが決まった時や舞が終わった時に大きな拍手をしてくれます。地いきの人が心を一つにしてお祭りをもりあげているようで、うれしくなります。
 お祭りの最後は参加したみんなが集まり、神社の前で「千しゅうらく」の行事をします。ししとササラを中心にして歌をうたって「七つじめ」で終わります。
 子どもも、保存会の人も、氏子もみんなほっとした顔をしています。
 下名栗諏訪神社のお祭りは地区の人たちが大事にしています。名栗で生まれて、よそに出ている人もお祭りには帰ってきます。お祭り一日目の夜宮には公会堂でカラオケ大会が開かれます。昔は青年団が東京から歌舞伎を呼んだり、映画を上映していたそうです。
 家ではいなりずしを作ったり、赤飯をたきます。おかずは野菜のに物です。私の家も昔は親せきの人が大勢来たので、おばあさんは接待をしていて、しし舞をあまり見たことがなかったそうです。
 諏訪神社の境内には二区の公会堂があり、地域の人がよく集まります。また、初もうでや七・五・三には必ず神社におまいりをします。下名栗の人たちは子どもも、おとなも、また、新しく入ってきた人たちもこの場所を中心にして結びついているのだと思います。
 名栗村はもうすぐ飯能市と合併する話があります。合併して村が無くなっても諏訪神社とお祭りはいつまでも残ります。
 私はササラが終わって、感謝状をもらっても笛の練習をしてしし舞に参加したいと思っています。
 おじいさんは「埼玉県や大きな市も地域でいっしょうけんめい活やくしている人が支えている。」と言っています。私はお祭りだけでなく、今参加しているスポーツ少年団や子ども会でも上級生としてはずかしくない態度で活やくしたいと思っています。
 小さな活やくでもいいからしていると、何だか、大きな物を支えている気持ちになってきます。

 地域で大事にしているお祭りのようすや、これを通しての地域社会の結びつき、そして、この活動を通して学んだことがすがすがしい新鮮な文章で綴られています。
 最後のまとめの部分が特に心に響きます。岡部さんがここまで深く学んだことは本人の資質とご家族によるところが大きいと思いますが、これこそ地域に愛着を持ち伝統芸能に共同して取り組んでこられた皆様方の力の賜だと推察いたします。
 下名栗の獅子舞と地域のつながりについては次のWebサイトをご覧下さい。LINK「下名栗諏訪神社の獅子舞」【新しいウィンドウで開きます】

(2)太鼓で地域とのつながり培う
 朝日新聞の「声」欄(平成22年8月10日版)に、「太鼓で地域とのつながり培う」という中学生の投稿が掲載されておりました。ベルギーから帰国した藤本賢人さんが地域の夏祭りに参加することで得られた貴重な体験やそこから学んだことが綴られております。地域との交流に関する考察を含んだたいへん立派な文なので紹介させていただきたいと思います。
LINK「太鼓で地域とのつながり培う」  【単独の文を表示します】

「朝日新聞」平成22年8月10日 「声」より

中学生 藤本賢人 (神奈川県藤沢市 15)

太鼓で地域とのつながり培う

 父の転勤で、6年間を過ごしたベルギーから日本へ戻り、丸4年になる。帰国後、妹と一緒に町内の太鼓保存会に入った。地元の神社の夏祭りで奉納するため、7、8月には週1回の練習を重ねる。3年目になって、ようやくたたけるようになった。
 大人のメンバーは僕たちに太鼓を指導してくれる。山車をつくり、交通整理もする。僕はふだん、学校以外ではずっと家にいて、あまり外へ遊びに行かなかった。もし、太鼓保存会に所属しなかったら、地域との交流やかかわりはほとんどなかっただろう。
 最近、高齢者の孤立や孤独死、行方不明が問題になっている。原因の一つは地域とのつながりが浅いことだろう。太鼓保存会には小学生からお年寄りまで50〜60人が所属し、ネットワークをつくっている。もちろん、町内のお年寄りが全員参加しているわけではないので、万全とは言えないけれど。
 お年寄りではなくても、将来、孤立する可能性はある。だから、町内の行事には積極的に参加するべきだとおもう。

 投稿者の藤本賢人さんがここで述べているように、高齢者の孤立や行方不明についても、地域とのつながりの希薄さが大きな要因になっているのだと思います。地域で協同して取り組む行事からもたらされる地域社会のつながりは、私たちにとってかけがいのない大切なものです。「地域に貢献し、地域からも助けられる」のが私たちの本来の姿なのだと思います。


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